10日目-3

 朝ご飯を食べて、歯も磨いて、お顔も洗った。服も着て、ウサギさんが付いている靴下も履く。鏡の前に座って、月ウサギさんとリボンのヘアゴムで髪を結んだ。

 鏡に男の子が見えた気がした。

「ユメちゃんっ」

「――!」

 嬉しそうな声が聞こえた気がして振り向く。

 ――でもユメの背中を支えてくれていたトモダチはどこにもいない。

「……」

 ママが作ってくれたペンダントを手に取る。ウサさんの欠片が、綺麗な白色の網の中で笑っている気がした。

「――ん!」

 ペンダントをぽっけにしまいこむ。最後に部屋を見回して、笑った。

「みんな、いってきます!」


   * * *


 今日はパパと「行ってらっしゃい」「行ってきます」をしながら一緒に家を出た。帰ったらママに電話して「おかえりなさい」って言ってもらう日。明日はママと一緒に家を出て、帰ったらパパに電話する。

 だから、大丈夫。ユメはお家でヒトリじゃない。

 思いっきり息を吸い込んで、教室のドアを開けた。

「………………………………」

 クラスメイトのみんなが、一斉にユメを見た。

 みんなの視線が怖くて思わずうつむく。言いたかった言葉は喉の奥から出なくなっちゃった。

「………………………………」

 ユメがずっと黙っていると、みんながひそひそお話しし始めた。

 ……こわいよ。みんな、ユメをみないでよ……!

 泣きそうになって目をぎゅっとつむった。


 ――「忘れないで」


 ウサさんの声が、聞こえた気がした。

 背中を伸ばす。目を開ける。大丈夫。ユメはヒトリじゃない。失敗しても、ママとパパが、トモダチのみんなが、ユメを待っててくれてる。


「ぉ、おはよぉ……っ!!」


 ――初めてのユメの挨拶は、へにゃへにゃした声だった。

 もう少し、ちゃんとした声を出さないと……!

「おはょぅ……!」

 むーっ! ちゃんとした声が出ない!

 教室のドアでへにゃふにゃ挨拶するユメを、みんながおかしそうに見た。

「ぉ、は……ょ……っ」

 声が、出ない。やっぱり駄目なのかな。失敗しちゃった。ウサさん、ごめ


「おはようっ!! ユミコちゃんっ!!」


 声が、返ってきた。強くて、しっかりした、怖くない嫌じゃない声。

 女の子が近付いてくる。いつもユメを笑う子と、よく一緒にいる子だった。

「わたし、ユミコちゃんとずっと、おはなししてみたいっておもってたのっ!!」

 びっくりして、思わずいつもユメを笑う子を見た。その子はすごく嫌な顔をしていた。

「えっと、――!」

 駄目だよ。嫌なこと言われちゃうよ――そう言おうとしたユメの言葉は、目の前の子の顔を見て、消えた。

 泣きそうな顔だった。でも絶対に泣かないぞって顔だった。

 ――そっか。そうだね、ウサさん。へやのなかでまってるだけじゃ、だめだったんだね。

 ユメはぽっけのウサさんに、心の中でこっそり話しかける。

 深く息を吸い込むと、ユメの前に来てくれた子に笑った。

「ユメをね、あなたの、おともだちにしてほしいなっ」

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