4日目-2
「ただいまっ」
ユメちゃんが学校から笑顔で帰ってきた。
「おかえりなさいっ」
今日は体育だったはずだ。転んでいないか心配していたけれど、ユメちゃんは嬉しそうに笑っているから大丈夫だったのだろう。
「ユメちゃん、嬉しそうだね? どうしたの?」
「えへへっ」
ランドセルを下ろしながらボクを見て笑うと、「なんでもなーいよっ」と手を洗いに行ってしまった。よく分からないけど、ユメちゃんが心から笑ってくれるならボクも嬉しい。
ユメちゃんは朝も笑ってくれることが増えた。ユメちゃんが学校に行っている間にしている内緒の練習であれが上手になったら、もっと笑ってくれるかもしれない。
「ウサくんっ」
ユメちゃんがドアからぴょこんっと顔を出して、楽しそうに笑った。
「おはなをね、みたんだよっ」
「お花?」
「うん! せいかつっていうじゅぎょうで、きせつのおはなをかんさつしたんだよ!」
「なんのお花を見たの?」
ユメちゃんはとてとてと本棚に近付くと、花の図鑑を引っ張り出した。重くて大きい図鑑を床で広げる。ボクも双子ウサギを抱っこしたまま床に膝をついて図鑑を覗き込む。ユメちゃんは白い花の写真のページを開くと、「これ!」と指を差した。
「なんてお花?」
「『たいさんぼく』だって!」
覚え辛い名前の花だ。思わず首を傾げると、「えっとね」とユメちゃんが言った。
「『まぐのりあ』っておはなのひとつなんだって。がっこうのなかにわでさいてたんだよ!」
「綺麗だった?」
「うんっ」
ユメちゃんが嬉しそうに笑う。ご機嫌で帰ってきたのは、この花を見れたからだったんだ。
「なので、きょうはおはなのおはなしをよみます!」
「わーっ」
えっへんと胸を張ったユメちゃんに拍手を送った。途端、ユメちゃんはしょぼんと肩を落とした。
「でもきょうは、むずかしいしゅくだいがでちゃったので、さきにしゅくだいです……」
「わー……」
拍手した手を止めた。
ユメちゃんは図鑑をそのままに、唇を尖らせながらランドセルを引き寄せた。
「今日はなんの宿題が出たの?」
「さんすう……」
すごく嫌そうな声だった。それでもやらないという選択はユメちゃんの中にはないようで、ランドセルから道具を取り出すと本棚の横に置かれている机に向かった。
後ろから覗いてみる。数字とよく分からないなにかがいっぱい書いてあった。
「……」
昨日の夜も思ったけれど、ユメちゃんの宿題の答えどころか、宿題の問題が全然分からない。
書いてあることも分からないボクに出来ることは、双子ウサギを抱っこしながら、頑張って宿題を終わらせるユメちゃんをそばで見ていることだけだった。
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