3日目-3
ユメちゃんがおそるおそるドアを開けた。
「……ただいま?」
「おかえりなさいっ」
双子ウサギを抱っこしたまま立ち上がってユメちゃんに笑った。どこか怖がっていたようなユメちゃんの顔が、少しずつ、笑顔に変わっていく。
「――ただいまっウサくんっ」
ユメちゃんはランドセルをしょったまま、ボクに飛びついた。
「よかった! ウサくん、いなかったらやだなって!」
ユメちゃんが嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる。
服だけじゃなくてユメちゃんまでウサギになったみたいだと思ってしまって、つい声を出して笑った。きょとんとしてしまったユメちゃんの頭を優しくなでる。
「手、まだ洗ってないでしょ?」
「! うん!」
ユメちゃんは慌ててランドセルを下ろすと、ぱたぱたと部屋から出て行った。
えっと、まずは宿題を確認しないと。それから、なにして遊ぼうかな?
今までユメちゃんがしていたことを思い出す。ユメちゃんはママさんとパパさんに迷惑をかけないように、宿題も遊びも頑張って一人でやっていた。けれど今はボクがいる。ボクはそばにいることしか出来ないけれど、それでも、ユメちゃんを助けられるはずだ。「寂しい」と泣くユメちゃんを、少しでも助けてあげられたように。
なにも言わない双子ウサギを抱っこし直そうとした時――ウサギが二匹、ぽてん、と、床に落ちた。
「――え?」
両手を見る。あまり力が入らない指に背筋がぞっとした。
「……っ」
崩れるように床に膝をつく。急いで双子ウサギを拾い上げると二匹を強く抱き締めた。
やだよ。まだだよ。だってまだ三日目なんだ。
ボクが人間になった時に魔法使いさんが言った言葉を思い出す。だからまだ大丈夫だと言い聞かせて、不安を追い出そうと思いきり頭を振った。
「――……ウサくん?」
ユメちゃんの声に身体が固まった。
「どうしたの? どっかいたい?」
ユメちゃんが近付く音がする。心配そうな声がボクに近付く。
「どうしよう? ねる? ねれば、よくなる?」
ユメちゃんの声が泣きそうな声に変わっていく。ボクは唇を噛み締めた。
「っ、大丈夫だよっ! お腹が空いちゃっただけっ!」
「そうなの?」
「うんっ! でも今はもう良くなっちゃったっ! 心配させてごめんねっ!」
立ち上がってそう言ったボクの笑顔に、ユメちゃんは安心したように笑った。
「ううん、だいじょうぶならいいの! きょうはユメがおはなしよんであげるねっ! よみおわったら、おやつたべよっ?」
ユメちゃんが本棚に向かう。その間に床に座り込むと、ユメちゃんからは見えないように、唇を強く噛み締めた。
嘘吐きになっていくボクを本当にトモダチと言って良いのか、分からなくなった。
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