3日目-2

「おはよう、はしもっちゃん!」「おはよー」

「お、おはよう」

 教室に入った途端に言われて、びっくりしながら挨拶を返す。席に向かいながら挨拶を交わしていって、ようやく席に着いた時、ホナミちゃんがわたしの肩をたたいた。

「とあちゃん、おはよー!」

「おはよう」

 ホナミちゃんが前の席に座る。大丈夫かなと思って教室を見回すと、ノムッちゃんは後ろのロッカーの近くで友達と楽しそうに話していた。

「『キスいま』のとくしゅうみた!? ツッチーほんっとイケメンじゃなかった!?」

「えっと、みたよ。かっこいいよね」

「ねーっ! かれしにすんならツッチーがいいなー!」

 ホナミちゃんが楽しそうに好きなアイドルの話をする。わたしはあんまりテレビを観ないから、ホナミちゃんが楽しく話せるようにとだけ考えながら首を縦に振った。

 教室のドアが開く。ホナミちゃんに気付かれないようにドアの方を見る。いつもと少しだけ違う髪型のユミコちゃんがうつむきながら教室に入ってきていた。

「……」

 ユミコちゃんはいつも通り静かに自分の席に着くと、教科書を机に移し始めた。

「とあちゃん? きいてる?」

「! ご、ごめんね。ぼんやりしちゃってた」

「またー!? とあちゃん、ボーっとしすぎ」

 ホナミちゃんが嫌な顔をした。給食のおかわりじゃんけんに負けた時の顔だった。

「ごめんね、ホナミちゃん」

「もー。だからあたししかともだちがいないんだよー?」

 ホナミちゃんの言葉に小さくなった。入学式の時にホナミちゃんに話しかけてもらえなかったら、わたしは一人ぼっちだった。声をかけてくれたホナミちゃんには感謝しないといけない。

「……ホナミちゃん、ごめんね」

「とあちゃんはしょーがないなー」

 ホナミちゃんが嬉しそうに笑う。わたしも笑う。ホナミちゃんは「でね、ツッチーのあくしゅかいが」と好きなアイドルの話を続けた。今度はちゃんと笑って話を聞きながら、それでもやっぱり、わたしは一人でゆらゆら揺れている二匹のウサちゃんのことを考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る