第6話 過去、それでも人とは…

俺、白波 空には一人の兄がいた。

彼の名前は白波 彼方。

10歳ほど離れた兄だった。

毎日兄と空を見上げることが習慣だった。

兄は俺に優しく星や虹などの空について語ってくれた。

兄は天文学者を目指していた。

ブラックホールを見てみたいとそう魅了されていた。

彼が空へと興味を向けたのは必然だったのかもしれない。

この街は空を一番克明に見ることが出来る街だったから。

彼は天才だった。それは数学者としてのだったが…

周りから期待されていた。

俺もそれが頼もしくて、誇らしかった。

空への興味をくれた人、優しく驕らない人。

それが兄という存在だった。

でもその優しさが死の元凶となった。

それから失うということに俺は恐怖し、心を閉ざした。

だから人には関わらない。

失うことが怖いから。終わりを見ることが怖いから。

だから永遠に光を生み出すそれに縋ったのかもしれない。

ともかくとして車と車の衝突事故が起こった。

この衝突事故は百パーセント相手に非があった。

まあ、これによって兄は俺を助けた。

天才である自分を投げ出してでも弟である俺を懸命に助けようとした。

無責任に死んでいって、その後の地獄を知らない。

いや、知らない方がいい。これが離婚騒動の元凶だから。

天才であった兄、父親である陸は彼に自分がなせなかった宇宙飛行士になることを

望んでいた。

故に俺が兄の命を奪ったと俺を追い詰め、酒に溺れた。

そして、母親は兄を失った喪失感と兄を愛していたのかと父親に疑念を抱いた。

そして、両者は深い傷を負ったままで俺を見向きもしなかった。

これは何回も見てきた客観的な視点だから言えることだけれども…


今回のおばあちゃんを殺した騒動も陸が狂ってしまったから始まったのではないかと

思う。全ての別れの象徴であるその記憶は彼方に消えた。

全てを思い出さぬように、全て責任を負わないように…

だから俺はこのような人間性になった。

世界を仮想運営を繰り返す前の俺は過去から目を背けたのだ。

それでも人は止まれないと思ってしまった。

起きること胸にしまって前へと進ませるから。

過去を否定せず、乗り越えることが出来るから。

俺はその過去を俺の責任にはしない。

それでも何故そうしたのかを俺はいつまでも考えて、

俺は兄がしたかったことをしようと思った。

その時兄が救った命を放棄しないようにしようと決断させた。

兄の命と同義であるこの命を兄の理想へ使おうと未来を向いた。

どれだけ悲しい結末であったとしても

どんなものにも終わりがあるとしても

俺は命を燃やして進もうと思った。

そして、生きる意味を見出せるほどに思いとは人を変えると照明されたから。


ここは永遠で穏やかな理想郷

それでも停滞する「人」にとっての牢獄

感情動かすものこそが真実であると思うから

これからどうするか、その命題を抱えながら

一つの人と一つの機械は再度対話を交わす

愛の言葉を交えながら、冗談を交えながら太陽を望んだ

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