第4話 繰り返し、繰り返し、それでも至らなかった

7月7日、あの後近くの人が俺の声を聞きつけたのか、

警察車両のサイレンは鳴り俺は事情聴取を受けた。

事情は詳細には分からないが、俺にはアリバイがあるらしい。

父親がいないため父親が真っ先に容疑者として浮上した。

警察からの事情聴取の後には俺は家の食糧を持って、天文台に来ていた。

今は星を見ながらただ過ごしている。

その時生きる希望は潰えた。親孝行さえ出来ぬ前に親とも言えるものは消えた。

そこには絶望があった。何よりも代え難い暖かみは消えてしまった。

ここで朽ちて死んでいくのだろう。

それでも星は輝き続ける。光が溢れる天の川では二人が邂逅しているのだろうか

視界が滲む。永遠の離別を果たした俺と永遠を生きて1日だけ出会う彼ら。

泣いて泣いて泣きじゃくった。泣きたくなくても溢れ出した。

泣かずにはいられなかった。今、おばあちゃんは星空で俺を見ているのだろうか

そっと目を閉じる。この瞳が永遠に開かなくても別によかった。












[演算結果:回避不可能]

[演算ではなく、空を中核として虚構世界シュミレートに移行]

[睡眠状態の対象に記憶制限を実行]

[前提となる『おばあちゃん』を変えずに「幼馴染」の設定を付加を実行]

[シュミレート開始]





いつもの日常、学校に帰りに”二人”で天文台へと向かう。

他愛もない会話だけどそれでも幸せで、星が俺たちを繋げてくれた。

明日は七夕で大きなお祭りがある。

小さい時は二人でよく行ったなと思い出していた。


「そうだね、七夕だ。一緒に行く?七夕夏祭り」

「ああ、いいね。行こう」


星に想いを乗せて、星に憧憬と未知を見出す関係。

学校ではカップルだの、恋人だの少しからかわれているが、

それも案外悪くないと思ってしまう。

この魅惑的な彼女を自分のものに出来たならという想いが

いつしか俺には生まれていた。

でも嫌な予感がする。

えもいえない既視感がある中で俺はいつものように山を登っていた。


少し曇っているが、夏の大三角形が天に輝いている。

彼女は本を読みながら時間を待っていた。


「それじゃ、夏祭り行こっか」


彼女は俺の手を引く。

魅力的な彼女に少し頬が赤らむ。

いつの間にか彼女の服は夜空をその身に降ろしたような浴衣を着ていた。

それからわたあめ、かき氷、焼きそばなどを一緒に食べた。

頬についたわたあめを取って舐めるなどの行為は恋人がするようなことだと

今思うと少し恥ずかしい。

それどう思ったのか、彼女はそのことについてからかって来た。

楽しいひと時、神社の境内から見た花火いつも見る静かな星とは違い、

熱く、温かい人が生み出した最初の星。


「いつもこんなふうに空を見ていたいよな」

「うん、暖かさを感じ合いながら永遠に星空を観測したい」


肩を寄せ合って、花火が終わったあとの静かな夜を見ていた。

この幸福が永遠には続かないことを俺は知っていた。

もう何回もこの景色を見た気がする。

一人家に帰れば、息を呑むほどの重い空気。

もう結末は知っていた。

知っていても尚それを理解することはできない。

実感も湧かない。慟哭が先に来て、発狂が後に来た。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ」






[シュミレート終了]

[結果変わらず]

[虚構世界構築による「幼馴染の彼女」という設定の付加に原因は有らず]

[新たに「妹」という設定の付加に改良]

[再度シュミレート開始]


一秒にも満たない時間の中で彼は思考する。

何回も同じ日々を繰り返している気がした。

確信はない。でも頭には靄がかかってはいるが

多くの自分が少しずつ見えて来た。

その終わりはいつも悲しみで満ちている。

悲しくて、悲しくて、辛い。

何度も見たとしてもそれだけは変わらない。

でもこの繰り返しには悲しみ以外にも嬉しいがあって、楽しいがあって、

生きていて嬉しいと思えたはず。

それでも俺に誰も気にしないだろうという諦めがあった。

俺なんて死んでいるようなものだろうと悲観していた。

それでも一人だけ、ただ一人だけはそれを良しとはしていないだろうと。

それが嬉しかった。

目の前には幾度となく寄り添い、心から愛せるようになった「彼女」

何もない静かで美しい海と星。

極点の星以外は光の輪となって天を輝かせる。

前提となるものを壊した何もない世界。

ただ永遠であるという世界。

繰り返しても、繰り返しても、至れない。

それは彼女が人間というものを正しく理解出来ないからであり、

人でないだろう彼女にとっては必然の結果であっただろう。

長く短い永遠で二人は語り合う。未来に向けて






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