第2話 消えたデネブ、見えてしまう絶望

7月6日 空凪町 廃棄された天文台にて


「やっぱり綺麗だ」


白波 空は無邪気に星を見ている。


「ただ夏の大三角形は見れないか」


わし座のアルタイルとこと座のベガ、はくちょう座のデネブ。

それらから成る夏の大三角形。

今は曇がかかり、ベガとデネブが隠れてしまっている。

それでもさそり座の心臓と呼ばれるアンタレスは赤く輝いている。

日本でもっとも星が綺麗に見える場所。

夜空と海を売りにしている空凪町。

避暑地としても有名であるからこそこの町には観光客が多く訪れる。


「でもこの天文台は廃棄してしまったんだよな」


この名前のない天文台は最新鋭の天文台に淘汰されて、

廃棄されてしまったのだと俺は考えていた。

この町では良く星を見る会などと言って、星にかんする講演会が開かれていた。

時間は夜の9時を示していた。


「最近は食欲が無い。流石にお腹すいたな。

こうして永遠に過ごせたらいいんだけどね」


深くため息をついて、帰ろうとした。この天文台は小さい。

書籍を保存する図書室と生活に使う食堂、風呂、

かつての職員の部屋と思われる部屋と望遠鏡のある観測室。

私はいつも観測室で天体観測、暇つぶしに書籍を読むために図書室にいる。

観測室には布で隠された天体望遠鏡らしきものがあった。

その布を踏んで大幅に転倒する。

そして、布が引かれて隠されていたものが姿を現した。

それは大きな地球儀。

2本もの金色の軌道線のようなものが

縦横無尽に回転し続けている不可思議なもの。

重力を無視した球体と回転し続けるそれは意味不明の代物だ。

そこには小さな宇宙があるかのようなそれに

俺は知的好奇心が抑えられなかった。

それが絶望の始まりだった。いや、希望だったかもしれない。

何故こんなものがあるのかという代物だったのは確かだ。

それに俺は触れようとした。もう自分を抑えられなかった。

星のような輝きと空のような様々な面を感じさせる蠱惑を持つそれに触れると、

一瞬にしてあらゆる情報が脳に流れた。

そして、俺は意識を失った。



見えた景色は様々でよく覚えていない。

でもはっきりと憶えているのはいつもと変わらない学校、

七夕夏祭りの風景、大きく空に浮かび上がる花火、

静けさ混じる祭りの終わり、そして家にある謎の死体、発狂と吐く俺の姿

これらの風景にはちゃんと匂いがあって、そこにいるような感覚を覚えた。

いや、目覚める前まではそこにいたんだと思っていた。

これは人に夢を見せる道具だ。夢の内容を変えられれば、

小説でよくあるフルダイブ型のVRMMOのようなものが出来るかもしれない。

精巧に作られた現実のような夢、

今では再現することが不可能なと呼ばれるオーバーテクノロジー。

夢が意図するものは分からないが特に気にすることはないだろうと

そう思っていたんだ。

残酷な真実を私はこの七夕で知ることになる。


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