第56話

 滑り台を降りると、さっきの広場にいた。また世界樹から蔓がおりてきて、世界樹の実を渡される。お疲れ様と労られているようだ。


「はい、テン。」

「きゃん!」

 テンが齧り付きやすいように、半分に切ってあげる。テンがシャクシャクといい音を立てて食べている。わたしたちは丸齧りが出来そうなので、並んで世界樹の実を食べる。



「お前たちの挑戦を途中でやめさせて悪かったな。」


 エドワードがぶっきらぼうに言う。わたしとアルは顔を見合わせた。


「わたしたち、エドワードさんをさがしにこのダンジョンに入ったから気にしないで。」

「そうなんだ。って、それどういうことだよ。」

「セバスさんって人が家に来てね、お母さんに探しに行ってくれって頼んでたよ。」

「セバスかよ。」


 エドワードはその金色の髪をくしゃっとさせた。


「心配してたよ。」

「心配かけるのはわかっていたけど、ここにこないわけはいかなかったんだ。」

「好きな子追いかけてきたって聞いてるよ。会えたの?」

「そんなことまで…。まだ会えてない。」

「そうなんだ。会いに行かないの?」

「行きたくても行けないんだよ。」

「え、なんで?」


 エドワードはつらそうに言った。好きな子に会えないなんて寂しいだろうなあ。


「ここの街じゃないんだ。ここ以外の街は精霊魔法が使えないと行けないからこのダンジョンに通ってるんだけど、全然使えるようにならないから焦っちゃって。」


 焦って無理をして、さっきのできごとに至るというわけだ。


「そっかあ。」

「でも、このダンジョンは無理をしても世界樹がどうにか外に出してくれるから大丈夫なんだ。」

「え…」


 そういう問題なのか?と思ったけど、恋に狂った人につっこんでも無駄そうなので突っ込むのをやめた。


「このダンジョンはクリアしたら精霊魔法使えるの?」

 ふと疑問に思って聞いてみた。


「それは人によるらしい。でも、お前みたいな薄い髪の色のやつほど早く使えるらしいぞ。」

「そうなんだ。」

「俺はお前らよりは時間かかるだろうな。」


 言われてみると、エドワードの髪の色はアルよりも濃い色をしていた。


「でも、俺は精霊魔法を使えるようになってセレーナに会いに行ってみせる。だから帰らないからな!」

「えー。」

「きゃんきゃん!」

 テンも文句を言っている。せっかく見つけたのに。


「じゃあ、セレーナに会えたら帰るのか?」


 アルが冷静に聞く。


「ああ。セレーナに会ってこの気持ちを伝えられたら帰る。」

「えー。」

「きゃんきゃん!」


 セレーナさんはどこにいるのだろう。夏休み中に家に帰れるのだろうか。


「はあ。とりあえず、うちの親たちに会って話し合ってくれ。もしかしたら協力してもらえるかもしれない。」

「本当か!」


 特訓付きでね。わたしは心の中で付け足した。

 世界樹の実を食べ終わった私たちは宿へ向かうことにした。



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