第50話

 荷解きが終わると、テンとアルとで世界樹へ行くことにした。


 広場の中心には、キラキラした薄い色の光に囲まれた大きな木があった。


「うわあ。きれい。」


 テンを腕にかかえたまま、世界樹を見つめて何も考えられずにいるとテンに尻尾で正気に戻された。


 ふと前を見ると、


 ー一斉に世界樹を見つめないこと。ー


 と書いてあった。


 見つめちゃった。目が離せなくなるからダメみたいだね。


「テン、ありがとう。」

「きゃん」


 アルを見るとアルも世界樹をじっと見つめたままだった。


「アル!」


 わたしはアルを揺さぶって正気に戻した。


「うわ、え?」

「見つめたらダメらしいよ。」

「あー。納得。」


 あちらこちらで見つめて動かなくなっている人がいて見回りの人が正気に戻しているようだ。


 ー世界樹の実が欲しい人はこちらー


 そう書いてある看板を見つけた。


「あ、あれ見て。」

「世界樹の実あったに行けば貰えるみたいだな。」

「うん!いってみよう!」

「おう。」「きゃん」


 私たちは、昨日幹の方へ向かった。

 そこには少し垂れ下がった枝がある。


「その枝の下に手を出してごらん。」

「はい!」


 見張りのお姉さんが教えてくれたのでやってみる。

 わたしの手には2つ、アルには1つの拳より小さいぐらいの林檎みたいな実が手の上に落ちてきた。


「ちゃんとその子の分ももらえたみたいだね。」

「よかったね!テン!」

「きゃん!」


 私たちは世界樹の周りをぐるっと囲んであるベンチに腰掛け世界樹の実を食べることにした。


 皮のまま齧る。瑞々しく爽やかな甘さで食べると旅行の疲れが取れて元気が出たような気がした。

 テンもアルも美味しそうに齧っている。


「おいしいね!」

「きゃん!」

「おう!」


 私たちは夢中で世界樹の実を食べ終わり、芯の部分が残った。


「芯の部分は、世界樹の根元に埋めておいてね。」

「はい。」


 テンがぴょんと世界樹の根元に飛び降り、少し穴を掘ってくれたのでそこに三つ分の芯を埋める。


 栄養になるのかな?


 テンの土を払って、サッと浄化の魔法をかけた。


「あなたたち旅行者?」


 さっきのお姉さんに話しかけられた。


「そうなのかな?」

「一応は?」


 一応依頼されてきてるので旅行と言えるのかわからないけど、気分は完全に観光だった。


「そう。楽しんでね。ここにいる間だけでも世界樹の実を毎日食べるといいわよ。」

「いいことあるの?」

「世界樹の実を食べると、エルフの力が身につくのよ。」

「エルフの力?」

「そう。この国に入れているからにはエルフの血ははいっているのでしょ?」

「そうなの?」

「かなあ?」


 わたしたちは曖昧に答えた。


「その髪の色なら入っていると思うわ。」


 へーそうなんだ。

 私たちの表情を見て、お姉さんは笑う。


「知らないで来たのね。じゃあ余計食べるといいわよ。いっぱい食べると寿命も伸びるし精霊魔法も使えるようになるんだから。」

「そうなんだ!」

「すごい!」


 世界樹の実の万能さに驚きだ。


 それから少し話をして私たちは宿へと帰った。

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