第2話 共同戦線

第二話


僕らの出会いは半年前だった。


雪の日に、仁科さんが行き倒れていたのだ____夢喰いの目の前で。


夢喰い狩りをしようとやってきた僕は、倒れていた彼を見て、悟った。


_____負けたんだ、この人。


夢喰いに、力が足りなくて。

弱くて、負けて。


殺されかけていた。


「…っ」


それを見殺しにできるほど、僕は上手に出来ていなかった。


夢術:みず


僕の夢術は、水を操る夢術。


夢喰いを無事に狩ったのち、僕は彼に話しかけた。


「…君、生きてる?」


_____まだ生きてると分かりきってる、彼に向かって。



* * *


「…潮?どうした?」


心配そうな仁科さんの顔が、目の前にある。


僕は目を隠すほど長い自分の前髪をいじりながら、答えた。


「忘れ物ないか考えてたんですよ」


今は夜。


僕らは昼間に見つけた痕跡を追って、森に来ていた。


…もし、痕跡が“夢喰い”のものだったら、これが初仕事になるかもしれないのだ。


仁科さんは自分の手に持った2本の刀を見下ろす。


「…俺は最悪これが有れば大丈夫だ」


「僕も大丈夫なんですけどね。

いつもの癖で」


僕の武器は、サーベルと 自らの夢術だ。


つまり、持ってくるものだなんて、サーベル以外ないのだけれど…。


どうしても持ち物をいちいち確認してしまうが、“昔”からの癖だった。


癖を思い出したついでに、“昔”一緒だった子が脳裏に浮かぶ。


赤いフードを着た、幼い男の子。


僕は無意識のうちに息をついていた。


…久しく会ってないなぁ…。

元気かな、風磨くん。


「____いたぞ」


僕の回想は、仁科さんの声でかき消された。


“憶測だが、夢喰いはここを人間狩りの根城にしてるんだろうな。

足跡から見るに、かなり縦横無尽に移動してる。地形に慣れているんだろう”


…彼の推測通り、木々の向こうに赫い目の夢喰いがいた。


その背には黒い翼。

そして鼻の高い仮面。


……まるで、天狗のような相貌の夢喰いが。


それは深い黒の翼をはためかせ、宙に舞っていた。


「潮、行くぞ」


仁科さんが躊躇なく踏み切った。


「……なるほどね」


僕はそっと、呟く。


_____仁科さんはやっぱり、凄いや。


…足跡が少なかったのは、 夢喰いが飛翔していたから。


敵が“飛翔”という“風”を使う行為を利用していると分かっていたからこそ、彼は夢喰い狩りを請け負った。


彼のの声がこだまする。


木枯こがらし


_____夢術:かぜ


仁科凪、風の夢術者。


空気の流れを操り、自分のものとする能力を所持しているのだ。


跳び上がった彼の周辺に、風の刃が生まれる。

それらは夢喰いに向かって真っ直ぐに向かっていった。


それぞれ円を描くように飛ぶ風刃達。


しかし、それは夢喰いの黒羽で砕け散る。


仁科さんの刀が、その黒羽に振り下ろされた。


だが、鮮血を飛び散らせたのは、彼の方だった。


隠し刀。


夢喰いが羽の間に隠していた小刀が、彼の頬に赤い線を描いたのだ。


「…っ」


斬撃をかわされた仁科さんは、そのまま落下する。


…だが、彼はタダで落下するような人間じゃないと、僕は知っていた。


「潮!」


「分かってますよ!」


ここから先は、僕の出番だ。


______夢術:みず


僕が夢術を使うとともに、巨大な水柱が地面から突き上がる。


その水柱に僕が手を触れた途端、花が広がるように凍った。


…僕の夢術は、“水を操ること”。


それは、水であれば形態を厭わなかった。


氷の塊と化した柱は、仁科さんの身体を柔らかく受け止める。


僕は階段状に水柱を出現させると、そこに飛び乗った。


階段を駆け上がりながら、サーベルを握りしめる。


僕が駆け上がった時、仁科さんの声が響いた。


木枯こがらし!」


全く同じ技。

しかし、その威力は格段に別段だった。


数多もの風刃が辺りに現れる。


それは夢喰いを捉えるように半円状に広がった。

そして、それは夢喰いを食らおうと襲いかかった。


一斉に牙を剥いた風刃を、夢喰いが切り裂いていく。


______そう、その為に。


僕は氷柱から飛び立った。


空中で、サーベルを構える。


夢喰いが少し後ろにひいた。

……そのバランスが…崩れる。


______ バランスを崩させるその為に、仁科さんは風刃を出現させたのだ。


あんな風刃くらい、簡単に砕かれることは分かっていた。


だからこそ、砕かれた後の風の流れを利用したのだ。


初めの風刃を砕かせ、その残り風で夢喰いの背後に空気の渦を作る。


そして、2回目の木枯にて、夢喰いを渦に誘い込む。


…それが、仁科さんの作戦だ。


「大丈夫ですよ、仁科さん!」


貴方は、素晴らしい夢喰い狩りだ。


____僕の叫びとともに、サーベルが夢喰いを滅した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る