第4話
夕方5時。スーツ姿の男性が、299カフェに来店する。
荒木(あらき)「ホットコーヒーと玉子サンドで、食後にショートケーキ」
店主の森本にそう伝えると、足早にひとり掛けのテーブル席に着きノートパソコンを開いた。
里子「はい、ホットコーヒーと玉子サンドね。荒木さん今日も仕事のラストスパート?」
荒木「ありがとうございます。そんな感じです、ここだと居心地良くて集中力が増すんで」
里子「まあ。、、無理し過ぎないでね」
荒木「はい」
常連の荒木は、ライターの仕事を仕上げる為にノートパソコンのキーボードを打ち始める。
ニャウ。
すると、白に茶色の八われ猫の田所が荒木の膝の上に飛び乗る。田所は上手に猫座りをして荒木と一緒にノートパソコンの画面を見る。荒木は軽快な指使いで文章を打ち込んでゆく。そして、文章が一区切りつくと、田所の右手がシュッとキーボードに伸びて、エンターキーだけが押される。そして、次の文章を荒木が考えながら打ち込む。猫の手も借りたい、そんな言葉はハッタリだと思っていた荒木だった。だが、このお店の田所と出会ってから、まるで仕事のパートナーとして田所は欠かせない存在になるとは想像もつかなかった。
荒木が座るテーブル席の周辺では、キーボードをリズミカルに打つ音と、田所が猫パンチでエンターキーを叩く音が響いていた。
荒木「ふぅーーーっ。今日はこんな所だな」
そう言うと、頼んでいた玉子サンドをモグモグと口に放り込み、ゴクゴクと冷めたホットコーヒーを飲み干した。それを見計らって、里子さんがイチゴのショートケーキと、サービスで暖かい紅茶を出してくれた。
ニャー。
荒木の膝の上に座る田所は、里子さんが運んでくる物を見上げながら鳴いた。里子さんがテーブルの上にショートケーキと紅茶を置くと、田所がテーブルの上にひょいと飛び移った。
里子「田所、気が付くのが早いわねー!、、ごめんなさいね荒木さん」
荒木「平気です。田所にはいつも助けられてますから。、はい、お疲れ様です」
荒木はショートケーキの上に乗っかる真っ赤なイチゴを掴み、田所の口元に持ってゆく。それを田所はパクっと甘噛みをしてテーブルの上から飛び降りた。そして、荒木の足元に来た田所は、もらったイチゴをムシャムシャと鳴きながら食べ始める。それを眺めながら荒木は、フォークでショートケーキを一口食べてから暖かい紅茶で喉を潤した。
荒木「はははっ、田所は何か人間っぽいよなぁ」
イチゴを味わいながら食べた田所は、満足気でコロンと転がり荒木にお腹を見せてニャッと鳴いた。
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