第9話 剣士の恥

 その後も、森を切り進んでいった。

 

「フォス、このフルーツみたいなのは?」

 

「ボリゲシの実です。見た目は汚いですが殻を割れば食べられますよ」

 

「フォス、この匂いがめっちゃする草は?」

 

「グレシナ草です。このエキスを抽出して下級ポーションがつくられます」

 

「フォス、このキノコは?」

 

「フゥンガスです、味は美味しいらしいけど食べられませんよ」

 

「フォス、この根っこみたいなのは?」

 

「ロットゼム、そのままは食べられませんが漢方などを作るときに使われます」

 

「ああ……もうっ!」

 

「弟よ、なんかお疲れの様子ですな」

 

「だって、こいつが何でもかんでも僕に聞いてくるんだもん、疲れましたよもう……!」


「色々聞いてしまってごめんな、フォスは何でも知ってて助かるよ」


(実際本当に助かっている。知識のフォス、剣術のフィア、この二人がいるだけで本当に頼もしくて百人力だ。)

 

 もしかしたら、俺が居なくても問題ないんじゃないかと思ってしまうほどだ。

 

 いやこいつらは、俺がこの森で一人で死んでしまわないようにわざわざ着いてきたのかもしれない。

 

「ところでフィア、なぜ君はそんなにも強いのに奴隷になんだ……?」


 いけないことを口走ってしまったと思いつつ、おそるおそる顔を横に向ける。

 

「それは私が剣士であるからです。それに捕まった時はまだ小さな頃、こんな大きな剣を振るう力なんてどこにもありませんでした」

 

「剣士じゃ駄目なのか、剣士がそんなにいけないことなのか?」

 

「——ゴミだよ、魔法が使えない人はゴミなんですよ」


(フォス。何で、そんなことを平然と口にするんだ……?)

 

「剣士だと駄目なんだ。剣士だから忌み嫌われた……両親も、剣士だから死んだ。僕たちは、剣士だから奴隷にされた……」


 その顔は冷ややかに、冷めきっていた。目つきの悪さから来る威圧感すらも、感じられなくなってしまった。


「剣士だからこき使われ、見下され、けなされ、道具のように扱われる……!!」

 

「……フィア、どういうことなのか説明してもらってもいいか?」


 フィアは、ため息のような声を漏らす。

 

「——剣士は、ほこれることじゃないんだよ」


「人は皆、個人差はありますが生まれながらにして魔法力をもって生まれてきます。一部の例外を除いて」


「私たち剣士は、その一部例外、生まれつき魔法力を持たない存在なのです」


「実は魔法師も剣術を使えるのですが。剣術は魔物との戦闘に根本的に向いてなくて、剣士の戦闘は常に一定のリスクをともないます」


「魔法師が遠距離から簡単に済ませてしまうものを、剣士の場合は泥だらけになるほどの苦労を強いられてしまうんです」


「だから私たち剣士は嫌われるんです。剣士と魔法師が対面しても勿論もちろん負けますし結局、私たちには選択権が無いんです」

 

「……だから、商人のような職にありつけなかった剣士たちは奴隷になるか、それにあらがって犯罪に走るくらいしか道が無いんです」

 

 その言葉に、あのとき砂漠で剣を交えた悪漢どもの顔を思い出した。

 

「でも私はこの剣で人を傷つけるようなことはしたくない、剣は魔物から人を守るためのものですから……!」


(——そうか、この世界ではこんなにも剣士が嫌われていて、こんなにも不当な扱いを受けていたんだ。)

 

「——フィアとフォスはすごく優しいんだね、そして正しい」


 俺は、二人の目をじっと見つめて。

 

「お前らは正しいことのために生きたんだな。それは魔法が使えるなんてよりも、ずっとずっとカッコいいことだよ……!」


(俺はこの世界の事情なんか全くもって知りもしないが、これだけは分かる。)

 

「……このままでいい、このままがいい。お前たちは、ずっとこのままでいい!!」


 フォスがクスッと笑ったのを見て安心したのか、フィアの顔も穏やかになった。

 

「こんな風に言われたのは生まれて初めてです、このままでいいんですね……」


 その答えには、心の優しさがじわじわとにじみ出ているようにも感じられた。

 

「決めた、こんな差別があっていいはずがない。俺はこれから全世界に向けて、剣士は強いって事を絶対に認めさせてやる!!」

 

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