魔法都市イルミゼリオン
第10話 始まりの決意
「——俺は信じてるぞ、剣士の力を」
そのまま数日間モンスターとの戦闘に明け暮れ、もう自給自足生活にも慣れていた。森を抜け、少し
「ようやく見えて来たな、あれが魔法都市イルミゼリオンか……!」
草原の一本道のずっと先を指差す手は、
「そうですね、あともう少しで到着ですよ……!」
俺には方向感覚が無い、フォス達がもしいなかったらと思うと恐ろしかった。
「まったく、地図があって良かったですよ」
長旅の末。二人は、もうヘロヘロ状態。
「俺に剣術教えてくれてありがとうな、フィア。結局どれも完成できなかったけど……」
「それはソラさんったら、そんなに強いのに初級剣術も知らないんだから……!」
そんな話をしていると、生い茂る緑の草原からは魔物が飛び出してきた。
「あれはグロウラビットね……!」
普通のラビットよりも一回り体格が大きく、灰色の毛と鋭い歯を持っている。
「帰らずの森を踏破した僕たちにとっては、こんなモンスター1匹敵じゃありません!」
俺は、フォスの掛け声に応じた。
「そうか、じゃあ俺に練習させてくれ」
軽く構えられた後に放たれる剣筋は、ビュンと風を切って進む。
「剣技/スピニングスラッシュ」
その刃はラビットの首元からジャキンと音を鳴らして、その命を断つ。
「それはまだ剣技じゃなくて力技です!」
フィアの審判は、やっぱり手厳しい。
「もう一足なんですよねえ、剣筋はいいんですけど……」
(こいつらの剣撃には光が灯っているのに、なんで俺のは出ないんだろうな……)
俺が浮かない顔をしていると、フィアは。
「こういうのは地道に努力ですよ、ファイトですソラさん!」
「……はあい」
「熱意が足りない!!」
「は、はいっ、師匠!!」
……………………………………………………
数時間歩いた先にようやくたどり着いたのは、魔法都市イルミゼリオンの関所。そこは多くの通行人でごった返していた。
「……そこ、止まりなさい! 君達は見たところ剣士のようだが、この街に来た目的を教えてもらおうか」
鎧を装備した関所の役人は、せき止める。フォスは、
「ここは世界屈指の魔法国家と聞いて、魔法具の査定がてら観光に来ました!」
そう言って、フォスは俺が悪漢から奪った布袋を見せる。
「……じゃあ、滞在期間は三日でいいな?」
俺は
(三日なんて短すぎる、俺はここでやらなきゃいけないことがあるのに……!)
役人がイライラし始めたので、フォスは作り笑いをしながら”分かりました”と頷いた。
「よろしい、通れ」
金貨一枚と引き換えに、役人から通行証に印をもらった。
「何だったんですかあれは、これからはあまり目立つような真似はしないで下さいよ!」
「そう言ってもなあ……」
「屁理屈はいりません、命が惜しかったらさっきのようなバカな真似はよして下さい」
(そこまで言うほどか、そんなにこの街の中が危険だというのか……?)
周りをキョロキョロと見渡してみると、確かに俺たちに対する目は好ましくなかった。
「分かったよ、これからは気をつける」
ヨーロッパ風の建物が一面に広がる街。街中は沢山の市場が並んでいて、馬車の音と人のざわめきで溢れかえっている。
俺は、そんな街の中心にそびえたつ時計塔を指差して。
「登るか?」
気の赴くままに登っていたら、気がつく頃には時計塔の頂上に到着していた。
「すげえな、ここがイルミゼリオン、世界一の魔法都市か……!」
見渡すは一面赤茶色の屋根、ここから見える人の頭はさながら豆粒。
川に架かる石造りの橋、豪壮な教会に荘厳な彫刻、見渡すもの全てが新しい。
(これが異世界転生でよくある中世ヨーロッパの世界ってやつか……!)
実際にその光景を目にすると、なんとも言えない感情が胸を締め付ける。
少し前までは一面砂嵐の枯れ果てた大地にぽつりと一人、この世界は永遠に砂漠地帯が続いているのではないかと思ったりもした。
でもここにはこんなに多くの人がいて、こんなにも多くの建物がある。
(まったく、世界観変わりすぎなんだよ。アニメの世界から砂漠に飛ばされて、その後はこれか、ほんと破茶滅茶だな……!)
『新しい環境』
俺は、新しい環境に馴染むのが苦手だ。いきなりルールを知らない場所に放り込まれると、何もできなくなってしまう。
頭がふわふわして考えがまとまらず、何をしたらいいか分からなくなるんだ。
——でも今は違う。
今は。彼女達の元に帰らないといけないという確固たる目標があるから、新しい環境が全く怖くない。
「それで、ソラさんはこれからどうするか決めたんですか?」
フォスの言葉に対して、俺は遠くに見える大きな存在感を放つ建物に人差し指を指す。
「ローデンス魔法学院、俺はあの学院に入学してトップにまでのし上がる。そうすれば認めて貰えるだろ……剣士は強いって」
その学院の敷地は、この時計塔の頂上から見ても莫大で。校舎の外装はきめ細やか、何か強い光を放っているようにも見えた。
「分かっていますかソラさん、あなたは貴族でもなければ類い稀なる魔法の才に恵まれてる訳でも無いんですよ……!」
「そんなの分かってるさ。でも俺は……ここから見える範囲の全て、全ての人に認めさせてやる。剣士はカッコいいって事をな!!」
両手を空に
「簡易魔法もろくに使えないのに……」
フィアはそんな俺の自信満々な笑みを見て、ぷっと吹き出す。
「そんなの関係ないさ、俺が変えてみせる、この理不尽な世界を!!」
——強い決意。
「もう、ソラさんって本当めちゃくちゃな人ですね……!」
これは俺の人生において、二度目となる大きな決断だった。
「夢は、絶対に叶う!!」
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