第8話 剣士と魔法師

「何言ってるんですか。知らないわけないじゃないですか、産まれた時に教会から潜在魔法力の有無の審判が下されるんですから」

 

「……ごめん、本気で分からないわ」

 

「えっ、まさかあの剣捌きで実は魔法師でしたとか言うつもりですか!?」

 

「いや、本当に分からないんだよ!」

 

「本当に分からないって、もしかしてソラって記憶喪失なんじゃないの?」


 どうやらフィアに記憶喪失だと勘違いされてしまったみたいだが、言い返しようもないので黙ってしまった。

 

「ちょっと手を貸して下さい」


 フォスに、手をギュッと握られると。

 

「え、どうぞ……?」


 その短剣で、腕の静脈はかっ切られる。

 

「簡易査定法です、見てください」


 摂った血液には、聖水が垂らされ。

 

「これで血が光れば魔法師である証なんですが、ソラさんの血は光りませんね……」


(ということは俺はやっぱり剣士ってことでいいのか、そもそも魔法使えないし)

 

「危なかったぜ、俺が魔法師だったらゴブリンの魔法力に侵食されていたって事だろ?」

 

「侵食にも個人差があります、一般的に言われているのは自身の魔法力が高いものほど大きなダメージになるということです」


 フォスが説明している横で、フィアがとつぜん叫ぶ。

 

「待って、この血……ほんの少しだけ光ってるわよ!?」


 すると、すぐさまフォスは顔を振る。

 

「簡易査定でこんな中途半端な結果が出るなんて聞いたことない、今までにこんな前例は無いはずですよ……!!」

 

「つまり……?」

 

「つまりソラさん、あなたは剣士でもなければ魔法師でもありません」

 

「でも俺は魔法使えないから、剣士ってことでいいんじゃないか?」

 

「はあ。本当ソラさんって不思議な人ですね、ほんとに何者なんでしょうか……?」

 

(逆に、俺はこの世界の人間でもないのに少しは魔法力があるってことなのか……?)


 森を歩き進めていると、墓地のコケから大量にカタカタとした音が響いた。


 その正体は大量のスケルトン。いきなり地面から姿を現したのであった。


「……ほらソラさん、ぱぱっとやっちゃって下さいよ!」


 フィアがGOサインを出すが、俺は何がなんだか分からず動けない。


「もう、何やってるんですか! 魔法ですよ魔法、使わないんですか?」


「待ってくれ、どうやって使うんだ!?」


「魔法の使い方も分からないんですか……簡易魔法なら魔法名を唱えるだけで発動出来ますから、とりあえず私の言うようにやってみて下さい!!」


 迫り来るスケルトンから逃げながら、フィアが言った魔法名を復唱する。


【 ライト 】


 この手の中からは、強い光が放たれる。

 

「———って弱い!! 全然倒せてないじゃないですか!?」


 俺たちは迫り来るスケルトンのせいで、焦り散らかしていた。


「こいつらどうするんだよ……!!」


 フォスは息を、荒げながら解説する。


「アンデット系の魔物は物理攻撃が効かないんですよ、だから魔法を使わないと倒せないんです!!」


「つまり今は大量のスケルトンvs剣士三人、最悪の状況じゃねえか!!」


「やっぱりソラさんの魔法力は少なすぎます、まさか簡易魔法の”ライト”一発もろくに打てないとは……!」


 フィアの叫び声は、物凄くうるさい。


「もう嫌あああああぁぁぁ、いつになったらここから出られるんですかあああぁぁ!?」


 俺たちではスケルトンを倒せないので、三十分ほど逃げ回り続けてようやくいた。

 

「俺、やっぱ剣士で良かったわ」


 フォスからは、すぐに質問が。

 

「どうしてですか?」

 

 フィアも、俺の目を見張っていた。


「お前らと一緒だからな」


 俺はそう言って、清々しく微笑んだ。

 

「あなたって本当不思議ですね。剣士でよかったなんて言葉、まともな生き方してたら出て来ませんからね」

 

(ん、どうしてだ……?)

 

「さあ、明日の朝は早いですよ。一刻も早くこんな場所からはおさらばしたいですし」

 

(サーズミリオン大森林だっけか、ここってそんなに危険なのか?)


 ——翌朝。


「おいおい、何だこいつは!?」


 出ました、言ったそばから出ました。


「ギガースデーモンベア。C級のグレードウルフベアよりも更に強い亜種です。逃げましょう、今の僕たちでは明らかに戦力不足です」

 

「待てフォス、どうやらこいつからは逃げられないようだぞ」

 

 俺の中の戦闘の”勘”が、こいつからは逃げられないと訴えかける。

 

「今度は本気でいくぞ!!」


 一度、呼吸を整える。足先から膝の関節までの回転を強く意識した大きなひねり。

 

「 一閃 」


 あの時の技の再現だ、腰の回転と腕の駆動を活かしきる一撃。

 

「何ですか、そんな剣術スキルは見たことがありませんよ!?」

 

 ベアは、雄叫びをあげて後ずさる。

 

「すごいです、ソラさん!」

 

(魔法はだめみたいだが、こっちの方はやれるみたいだな。あの世界でつちかったイメージの力は伊達じゃない……!)

 

 でも体がうまく追いついていない、技を使い切れていないから威力も弱まっている。

 

「ここからは私に任せて下さい!」

 

【剣技/スライスアッパー】

 

 フィアの長剣からは橙色のオーラが集約し、デーモンベアの体勢は大きく崩れる。

 

「今よ、フォス!」

 

【剣技/アッシュレイド】


 灰色と青色のオーラを纏った猛突撃によって、ベアの心臓は打ち砕かれた。

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