帰らずの森
第7話 サーズミリオン大森林
「あーもう、お腹すきましたー! もう丸一日何も食べてないじゃないですか〜!!」
現在。フィアとフォスは空腹に、うーうーと
「大丈夫かお前ら、今までどうして来たんだよ。その……奴隷だったんだろ?」
「正確に言うと戦闘奴隷よ。だから意外と腕には自信ありますよ〜!」
「それはそうとソラ、あの時の戦いは一体何だったのよ!」
「ソラが急に”死んでもいい”とか言い出した時はもうお終いかと思ったけど、まさか本当に勝っちゃうなんて……!」
「僕もそれは思いましたあああ、ところでご飯はまだですかああ!?」
(フォスは普段まともなキャラなのに、エネルギー切れを起こすと急に壊れるな……)
「実はあの時のことは俺もよく覚えてないんだ、もう死を覚悟してたんだが、気づいたら頭に血がのぼってて……不思議だよな」
「そんな、殺人鬼みたいなこと言わないで下さいよ……」
「もしかしたら、本当に記憶を無くした殺人鬼だったりしてな!」
冗談半分でそう言うと、フィアに凄い顔でこちらを見られた。
「……ごめん、冗談だ」
「——おっと、敵みたいぁな。構えろ!!」
ガタイのいいゴブリン三匹、俺はすぐさま悪漢から奪った片手剣を手に構えて。
「……しまった、浅い!!」
やっぱり今の俺はかなり弱い。あの時の力がまぐれだったかのように、この体は重い。完璧に、思い通りに動いてはくれない。
それはまるで夏休み明けの短距離走。スタートラインの第一歩を踏み出す時のような、足の重たさだった。
「それじゃあ、私に任せて!!」
【剣技/ソリドスラッシュ】
フィアの剣技により、三体いたゴブリンの命は一瞬で絶たれた。
「すごいな、もしかしてフィアってかなり強かったりする?」
「当たり前よ、戦闘奴隷として使えなかったらもうとっくに捨てられてるわ」
フィアには、自信満々の笑みが浮かんだ。
(世知辛いもんだな……)
すると急に。森の中には霧がもわもわとかかり始め、辺りは暗がり始める。
この帰らずの森ことサーズミリオン大森林には、異様なほどの不気味さが漂っている。
木々の形すら
遠くからオオカミのような雄叫びが発せられて、森の中を反響する。
「私もう無理です、早く帰りたいですっ、こんなの怖すぎます……!!」
フィアは恐怖心から俺の腕に抱きついた、髪の毛は腕にごわごわを感じさせる。
「確かに、中々の臨場感だな……でも、フィアは強いから問題ないんじゃないか?」
「そういう問題じゃないんです、ソラさんだってゴキブリとかは嫌でしょう! 何かそういった感じの気持ち悪さがあるんです!!」
(分かるような、分からないような……)
フィアは強いけど意外と怖がりらしい、ってこの森のおぞましさじゃあ仕方ないか。
確かにここは砂漠とは大きく雰囲気が変わり、何かぞわっとした霊的な寒さを感じる。
「ま、まあこんなのどうせ幻聴ですよ」
そういうフォスの声も、震えていた。
ある程度森を進んだ所で、魔物避けのためにもと早々と火をおこした。
二人が背負っている、ぐちゃぐちゃになった二匹のゴブリンに目をやると。
「お前ら、一体そのゴブリンをどうするつもりなんだ……?」
嫌な予感を抑えて恐る恐る聞いてみると、フォスはケロッとした顔で。
「何って、今からこれを食べるんですよ」
「ええ。ゴブリンって食えるのか? いやいや、絶対不味いだろ……!」
「このゴブリンならエグみが少なくて食べられるんですよ、そもそもゴブリンは人肉に近いですし!」
(……フォスよ、それはそれで問題なんじゃないか?)
「怪しすぎる、嫌だ! いくら腹が減ってるとはいえゴブリンを食べるなんて……!」
するとフィアは、ゴブリンを剣で切り刻みながら言う。
「これは本当よ、私もゴブリンは意外と美味しいって聞いたことがあるわ」
(本当なのかよ、てっきりフォスが空腹すぎて頭がおかしくなっているだけだと思っていた……!)
完成した焼きゴブリンの肉を目の前に、冷や汗を垂らす。
「確かに、これは意外といける……?」
食レポをするつもりは無いが。肝心のゴブリン肉の噛みごたえは抜群で、噛み締めば噛み締めるほどジューシーな味わいだった。
フォスとフィアの方を向くと、二人とも物凄い勢いでゴブリン肉に食らいついていた。
「お前らって、何かすげえな……」
その二人の食事する姿は。たくましいというか、とにかく凶暴だった。
「だから言ったでしょう、ゴブリン肉は魔法力が少し混入しているだけでそれ以外は普通の肉に近いんですよ!」
「魔法力を吸収できない僕たち剣士なら、魔物の魔力に侵される心配もないですし」
「おいフォス、今最後なんつった?」
「だから、僕たちは剣士だからゴブリン肉を食べても体に害は及ばないんですよ」
「待ってくれよ、俺は自分が剣士かどうか分からないんだが……!」
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