第4話 弱肉強食に駆られる

 ◆DAY6◆

 

 唇は乾燥し尽くしてひび割れ、唾を飲み込むたびに苦痛を感じる。まぶたは垂れ下がり、極限の飢餓状態に陥っていた。

 

「動物の……骨?」

 

 砂漠のど真ん中に落ちているのは、中型の獣らしき死骸だ。

 

「動物がいたのか……!?」


 すると突如、はるか遠くからタンタンと四足で地面をかき立てる音が聞こえた。

 

「なんだ……?」

 

 何かが、こちらに猛突進してくる影。

 

「幻覚か………??」

 

 砂煙が巻き起こって見える。ものすごい勢いで走ってくるのは銀色の図体に禍々まがまがしい黒色の柄が入った、ヒョウらしき猛獣。

 

 その速さは、まさにチーター級。

 

「いや本物だ、逃げられない……!!」


「……違う。これはチャンス、これは食糧だ。立ち向かえ、今までだってずっとそうしてきたじゃないか。今はただキューブが無いだけの違いだろ」

 

 今の俺のレベルは、いわばレベル一の初期状態のようなもの。この世界での初戦、この身一つでの戦い、命懸けの勝負の始まりだ。


「集中しろ、最初の一発で全てが決まる……!!」

 

 見極めろ、突進の一瞬の隙を。タイミングを掴め、よく動きを見ろ。

 

「はあああああぁぁぁっっ!!!!」

 

 猛獣が急にスピードを上げて爪を立て飛びかかってきた瞬間、さっき拾った骨の先端部分を口に突き刺す突撃の一瞬。

 

「おらああああぁぁ!!!」

 

 猛獣からは赤黒い血飛沫が飛び出した、そのまま足を横に大回転させて蹴り飛ばす。


 それでも猛獣は再び大勢を立て直し、大きな雄叫おたけびを上げて向かってくる。


「望む所だ……!!」


 極限状態だからこそ覚醒する武者震い。これは獣と獣の戦い、ありのままの姿できばをむき合う大自然の中での命の駆け引きだ。

 

 負けた者には、勝者のえさとなる運命が待っているのみ。

 

「……ここだ、ごるあああああっ!!」

 

 猛獣の腕をぎしっと掴んで回り込み、全身の力で腕をねじって折り曲げた。

 

「まだだ!!」

 

 猛獣は苦痛の雄叫びを上げる、俺はひるまない。休むことなく石の破片を眼球に突き刺し、後ろに飛んで爪攻撃を避ける。

 

「目も潰して片腕も封じた。どうやら、俺の勝ちみたいだな……!」

 

 猛獣の背後をとり、何度も何度も石で殴って殴って殴ってえぐりとる。


 背中に倒れ込む、心拍数はこれでもかというほどに上昇していた。

 

 俺は背中に倒れたまま猛獣の体を切りがし、ごくごくと血液を飲む。

 

「水だ、水分だ…ぁ……」

 

 これで喉は一応うるおったし、生ではあるが肉も入手した。

 

「食うしかない……!!」

 

 邪念を取り払って生きるために喰らいついた、むちゃむちゃと噛み締める音が響く。

 

「このままにしておいたら血の匂いに釣られて他の猛獣が来てしまうかもしれない、さっさと食ってここを去ろう」

 

 猛獣の皮をいで、頭に巻いた。

 

「これで一レベルアップってか、何度だってやってやるよ……!」

 

 先程の戦闘地点から少し離れた岩陰に着くと同時に、バタリと倒れ込む。

 

「もう、駄目だ……!」

 

 頭に巻いていた獣の皮を体にかけると、そのまま眠りについた。

 

 ◆DAY9◆

 

 物凄い腹痛に襲われる、あれからずっとこの痛みが続いていた。


 空っぽの胃の中から血反吐を吐くが、俺は歩き続ける。砂嵐の海をただただ歩く。

 

 ——順応するんだ、この苦しみに。


 ——順応するんだ、この環境に。


 ——順応するんだ、この光景に。

 

 

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