第2話 果てなき遭難の末に

「喉が……乾いた……」

 

 どこへ歩いても景色は変わらないのに、体の中の水分はどんどん無くなっていき、声は枯れ果てる。


「なんだよ、この仕打ちは———」


 俺が何の罪を犯したっていうんだ、どうしてこんなにも無慈悲に絶望を押し付ける。


「はあ、何が神だよ……」


 どうやら暑さにやられて、思考が少しばかりおかしくなってしまっているようだ。


 食糧、いや水すらも見つからない。

 

「違う、水がないならこれ以上無駄に水分を使わないようにするんだ……!!」

 

 掛け声。掘るのに良さそうな砂山を探し出し、砂を手で掻いて大きな穴を横に掘った。

 

「この洞窟の中ならまだ耐えられる、直射日光は体力に響くからな……日中はこの中でしのぐしかないか……」

 

 巣窟の地面であぐらをかく、手持ちが何もない故の不安の募り。

 

「熱が脳にまで伝わって頭が回らないが、今は落ち着け、体力温存だ。しっかりと呼吸を保て、精神を研ぎ澄ませるんだ」

 

 一定の呼吸リズムを途切らせるな、体に覚えさせるんだ。

 

「……さっきまでは驚きと暑さで乱れてたが、落ち着いてきたぞ」

 

 おもむろに立ち上がり、またもや爪を使って砂山の内部をかき分け掘り進める。

 

「ようやくだ……ようやくそれらしきものが出てきたな!」

 

 石の破片を手にしポケットにしまい、だいぶ涼しくなってきたところで、その穴から抜け出して再び放浪する。

 

「それにしても酷い、どこを見渡しても草木一本たりとも見当たらないじゃないか」

 

 標高が高い地点を目指した二時間以上の放浪の末、ようやく頂上にたどり着いた。

 

「すごい光景だ、この広大な世界の中に一人ぽつんと今俺は立っているんだな……」

 

 未だなお、生きる喜びを忘れていな感触に、どこか安心感を覚えた。

 

「今は感動している場合じゃない、辺りはもうすぐ暗くなってしまうぞ……!」

 

 ぼやける視界をて目を凝らし辺りを見渡し、一点を目標に定める。

 

「あそこに、ぼんやりとだが少しだけ草木が見える……! だが時間ももう無い、もうじきあたりは暗くなってしまう……!!」

 

 ここでまた穴を掘るのは非効率すぎるから、今日進まないといけない。

 

「日が暮れるまでに、急ぐんだ!!」

 

 心臓はまた異常に発作ほっさを起こす、既に辺りの景色は赤茶色に染まっていた。


「また呼吸が乱れてきた……このままじゃ、間に合わない……!!」

 

 とうとう、完全に日は沈んでしまって何も見えなくなった。

 

「……ここは砂漠だ、障害物は何もない。このまま真っ直ぐ進んでいくだけで辿り着けるはずだ。そう、真っ直ぐ進めば」

 

 あたりは一面暗闇の一色、少しでも方向感覚を狂わせてしまったら到達点から大幅に道筋がれてしまう。

 

(真っ直ぐ進む、そんなの簡単なことだ。今まで頑張ってきた俺ならやれる……!!)

 

「意識を集中させろ、身体は左右対称じゃないから直感じゃなく感覚で動くんだ」

 

 目を瞑り前進し続ける、自分をとにかく信じ、心の目で進む。

 

「寒い、今度は寒すぎる……指先がかじかんで感覚がなくなっていく……」

 

 急激な寒暖差のせいで、体は今にも悲鳴を上げそうだ。


「あと何時間歩いたら着くか分からないけど足を止めるな、必ずいつかは着く……!!」



……………………………………………………



「着いたのか———」

 

 そこにはちょっとした雑草と果実のようなものがあるだけ、でも今の俺にとってはそれですらオアシスのように見えた。

 

「植物が、ある……!」

 

 石の破片を使って葉っぱを切り取り、バサッと地面に広げる。

 

「よし、だんだんと暗視にも慣れてきたみたいだし、始めるか」

 

 葉っぱを手探りで編んで器を作り、蒸発した水を集める装置を作成した。

 

「まさか、テレビで見たサバイバル術が役に立つ日が来るとはな……」

 

 少しでも体温が逃げないように丸まった体勢をとって眠りについた。

 

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