双剣の申し子—another world—ブレイドアンヘル・ディスティンクト

✴︎天音光✴︎

砂漠放浪

第1話 “異世界”転移

 ——みんな、ありがとう。


 これからも永遠に守っていこう。みんなの笑顔と、この平和な日常を。

 

(夢が、叶った……!)

 

 ——生きるという希望を見出みいだすこと。


 ——過去を認め未来に踏み出すこと、人と向き合い人を信じること、一人の人間として生まれ変わること。

 

(その、全てが叶った。)

 

 何度も迷って、戸惑とまどって。それでも絶対にあきらめずに立ち向かった結果だ。

 

(今度は何しようか。また皆で海に行って、お祭りに行って、キャンプに行って……毎日が楽しみでいっぱいだ。)

 

 いきなり、目の前にはまぶしい光が広がった。盲目もうもくの目でも分かる強い光。

 

「……そら君!!」


 補聴器を介して聴こえる優希ゆきの必死な叫び声は、どんどん遠くなっていく。

 

そら……!!」


 最後に。この目には俺の体に手を伸ばすかなうの姿が、くっきりと映った。


 ——もう、目は見えないはずなのに。


 光に包まれながら彼女たちへと手を伸ばそうとするが、その距離は離れていく。

 

 ——そして、声は聞こえなくなった。

 

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「どこだ、ここは一体どこなんだ……!?」

 

 盲目の目はなぜかその光景を映し出した。一面に広がるは無限に砂漠地帯の光景、どこを見渡しても物影ひとつ見当たらない。

 

 あるのは広大な砂山、ボロボロに枯れ果てた大地と強く照りつける日差しのみ。


「あ……?」


 潰れていたはずののどからは、なぜだか声が発せられた。

 

「叶、優希たちはどこだ……!?」

 

 周りを何度もくるくると見渡すが、やはり誰一人として人影は無かった。


「嘘だ……ろ…………」

 

 溢れ出る涙で顔がぐしゃぐしゃになった。あまりにも酷すぎる現実は、俺の頭を混乱させて心を狂わせる。

 

「まだ何もできてないのに」

 

 眩しく照りつける日差しはジリジリと俺の体を焼き焦がしてゆき、身体中から危険信号の汗が発せられる。

 

「どうしてこんな場所に……?」

 

 これは最悪の状況、その息切れが激しいガラガラの声でうなる。

 

「そうだ……!」


 ポケットをガサガサと探るが、キューブはどこにも見つからなかった。

 

「それに何かがおかしい、物凄く体力の消費が激しい気がする、なんだか身体が弱くなっている気がする……」


 キューブの恩恵があれば、こんな熱さどうってことないはずなんだ。


「はあ……」


 俺は涙をせきとめるかのように上を向いてため息を漏らした。

 

 何もかもだ。大切なもの全てが一瞬にして消え去った、何もかもが奪いさられた。能力も、友達も、家族も。


「命懸けで守った世界で、平穏な日常を謳歌おうかする権利さえも……!!」


 毛穴は噴火、大量の汗は噴き出し続ける。

 

「どうしてなんだ……!!」

 

 元の世界でいきなりアニメの世界に飛ばされて、命懸けで世界を救った。

 

 これから世界を救った主人公の平穏な後日談が描かれるハッピーエンドが待っている。


 そんな日常を夢見て戦ってきたのに、戦いが終わったらすぐ別の世界に飛ばされて。

 

 そんなのどう考えてもおかしいだろ。これから俺にどうしろって言うんだ、また同じように世界を救えってか?


 そしてまたこの世界を救ったら、また次の世界に飛ばされるのか?

 

くじけそうだ……」

 

 カラカラとした太陽の暑さとはまた違った、胸を押しつける熱を感じる。

 

「もう会えないと言うのか」

 

 俺が大好きな人たちに。

 

「もう聞けないと言うのか」

 

 大好きな人たちの声を。


「もう戦えないかも、俺……」

 

 そんな気持ちにも関わらず、砂嵐は吹き続け照りつける日差しは体力を消耗させる。


「ふざけるな……!」


 俺は両手の拳を強く握りしめる、空高く顔をあげ叫び声を上げる、声を張り上げて腹から吐き出す。


「おい、見てんだろ、今そこでっ!!」


 天まで届くほどの強い思念、そこには強い意志と決断があった。


「神様だか何だか知らねえがいいぜ、受けてたってやるよ!!」


「俺は何があってもみじめに生き残って絶対にあの日常を取り戻してやる、それが何十年先のことになったとしても!!」

 

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