第6話 修学旅行1

 修学旅行。それは同い年の男女が同じホテルに入っていき、朝ホテルから出るところを地域住民に目撃される行事。

 俺たちは今、目的地に向け新幹線で移動している最中だ。

「ババ抜きしよ~」

 後ろに座っていた佐藤さんが誘ってきた。

 断る理由もないので隣に座っていた吉野と共に席を回転させ、佐藤さんと高橋さん二人と向き合う。

「秋ちゃんと茉莉ちゃんも一緒にしよ~」

 通路を挟んだ反対側の席に座っていた前野秋さんと加藤茉莉さんも誘って6人でババ抜きをすることになった。

 トランプを配り終えババ抜きを始める。

「じゃあ、引けよ」

 吉野が俺に向かって言ってきたので吉野のカードを引く。

 その後、佐藤さん→高橋さん→前野さん→加藤さんの順まで進み、次は加藤さんのカードを吉野が引くところ。

「ちょっと待って。秋ちゃんに茉莉ちゃんのカード見えちゃう」

 吉野が加藤さんのカードを引こうとすると、前野さんの体の前あたりでカードを引くことになるので前野さんが見ようと思えば確かに見える。

「じゃあ、前野上向いとけ」

「きも」

「なんでだよ!」

「ボディラインが強調されるから」

 たしかに顔を上に向けると、平原の大地が隆起して小さな丘が出現する。

 女の子だけで遊んでいるのなら問題はないのだろうがここには男も吉野もいる。前野さんが気にしてもしかたがない。

「じゃあ、どうすんだよ」

「私が茉莉のカードを引くから、吉野が私のカードを引いて」

「あーそれでいいか」

 その後4巡くらいしたがほとんどカードが揃わない。

「全然揃わないね」

「ねーこれ1位だった人に景品あげない?」

 高橋さんが唐突な提案を出してきた。

「景品?」

「車内販売のお菓子とかアイスクリームとか」

「高橋、お前手札の枚数少ないから言ってるだろ」

「別に手札の枚数が少ないから早く上がれるとは限らないでしょ?」

「それはそうだが」

 吉野は自分の手札の枚数が多いからか拒否していたが、最後には他のみんなに流されて嫌々ながら了解した。

 その頃からだろう、前野さんの様子がおかしくなったのは。

「あー、目が乾燥する」

「大丈夫?」

 どう見てもわざとらしいが佐藤さんが心配の声をかける。

 前野さんは目頭をギューと指で押さえ、しばらくしてから加藤さんのカードを引く。

 すると、カードが揃い手札を捨てる。

 次の前野さんの番

「あー肩が凝る」

「大丈夫?」

(1巡前にも似たようなことが行われていた気が)

 前野さんはカードを自分の膝の上に裏向きで置いて肩をグリグリと回す。

「そろそろ引こうかなー。あっ、また揃った」

(……前野さんやってんな)

 今回も1巡前も前野さんは新幹線がトンネルに入るタイミングを狙って引いていた。 

 新幹線の窓に加藤さんの手札が映しだされる瞬間を狙って。

(誰も気づいてないのか?)

 結局そのままゲームは進んでいき勝者は前野さん。

「くそ。もう少しだったのに」

 吉野の手札は残り1枚のところまで減っていた。

「じゃあ。みんな景品」

 前野さんは謙虚になることもなく景品を要求してきた。

「秋ちゃん!」

「なに佐藤さん?」

(佐藤さん? まさかこのタイミングで⁉)

「すっごいね! 秋ちゃんもかなりカード残っていたのに」

「まあね」

(……)

 その後もトランプを使った遊びをいくつかしたが、名女優前野秋の前に誰も勝てなかった。

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