第7話 修学旅行2

「あ~、やっと着いた」

「北海道はでっかいどう」

「奈良だけどな」

 前野さんのしょうもないダジャレに吉野がつっこんだ。

「奈良県だからね」

「なら仕方ない」

(ん?)

 修学旅行で吉野と前野さんのテンションが上がっている。

「奈良県初めて来た」

「わたしも~」

 佐藤さんと高橋さんの二人は奈良県初上陸のようだ。

「トイレ休憩10分取るから行きたい奴は行っとけ~。お土産はまだ買うなよ~」

 池田先生が全生徒に聞こえる大きな声で言った。

「うydhふづfds」

「どうしたの前野? 大丈夫」

前野君がさっきからブツブツ言ってる。

「どうした前野? そんな真剣な顔をして」

「そうだよ。前野くんらしくないよ」

「いつもこんな顔でしょ。ねえ秋」

「うん。そうだよ」

「いうhふぃづふぃf」

 誰に何を言われようとも前野君に変化はない。

(まさか奈良に来たから大仏になりきっているとでもいうのか、前野君?)

「あっそうだ。志穂ちゃん、お土産買いに行こ~」

「買うなってさっき言われたけどいいの?」

「バレなきゃ、お土産じゃないんだよ?」

「あっ。俺たちも行こうぜ。田中」

(……)

「……」

 池田先生が吉野と佐藤さんの二人を無の顔で見ている。

 池田先生の目が「あとでシバく」と語りかけてきている。

 俺以外の三人はそのことに気がついておらず、俺を連れて土産売り場に向かう。

 土産売り場に向かったはいいが肝心のその店が見つからず、先に駅構内の案内図が見つかった。

「わたし見てくるね」

 佐藤さんが小走りで場所を確認しに行った。

「えーと」

 少し離れた場所で俺と吉野と高橋さんが待っていると、その横を物凄い勢いで通り過ぎる人物がいた。

ドッッッン。

「え⁉」

 物凄く大きな音がした。目の前で前野君が佐藤さんに壁ドンをしている。

「ちょ、前野くん?」

「ハアハア」

「どうしたの? 息ハアハア言ってるよ?」

「さ、佐藤」

「ダメだよ。前野君。こんなところで。みんな見てるよ」

「もう我慢できねえよ」


(告白か?)

「ちょっと、あの二人あんな仲だったの?」

「まったく知らなかったぜ。青春っていいな」

 吉野が目に涙を浮かべて泣いている。

 周囲の雑音がうるさくてここからじゃ会話内容は聞こえないが、どんな結果であれいつもと変わらないように接しよう。そう思っていたら……


「あっ!」

 佐藤さんが泣きながらどこかへ走っていく。

(フラれた? でもそれなら泣くのは前野君のはず)

 いったい何があったんだ?

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