第5話 水泳

「ウッホー」

 天気は快晴。今日の3限目は体育で水泳の授業だ。

「はい二人組つくってー」

(ふたりぐみ? 番号順でよくない?)

ぼっちを一撃で殺す呪文が唱えられた。

 俺の体が硬直する。

(状態異常系の呪文でもあったか……)

「おい、田中一緒に組もうぜ」

 吉野が二人組になろうと誘ってくれた。

(助かる。吉野。本当に感謝だ。こういう時、そっちから誘ってくれるお前は本当にぼっちの味方だ)

「ウッホ」

 男子生徒がなにか言っている。

「先生いいからだしてるよなー」

(……)

 ドン、ドン、ドン。

「人数確認するから動くなー」

 二列になって体育座りで数えるのを待つ。

 先生が人数を確認していると吉野が手を高く上げた。

「なんだ吉野?」

「先生、女子生徒がいません。男しかいません。ここはそう言う場所なのでしょうか?」

「今日、女子生徒は野球をしている」

「男女差別ですか⁉ 嫌だ」

 そう言って吉野は立ち上がると

「じょーし、じょーし、じょーし、じょーし、じょーし──」

 吉野の後を追って何人かの他の男子も「じょーし」の斉唱を始めた。

「まあ、待て。みんな。ここに女子がいるじゃないか」

「……ゴリラじゃん」

 ※女性の容姿を悪く言ってはいけません。

(吉野はこともあろうに目の前の先生のことをゴリラと呼んだ。……イグザクトリーだ、吉野。あれはゴリラだ。間違いない)

 目の前の先生をしているゴリラは全身が毛深く黒い。そしてガタイもいい。「ゴリラ」と生徒に言われたゴリラ先生の表情は

(……なんだあの表情は? ゴリラに詳しくないから分からないがあれは真顔ではないか?)

 ゴリラはもちろん「ウッホ」ーや「ウッホ」としか言っていない。

 このギャグ次元でも人の言葉を話すことは許されていない(今のところは)。

 今まで人の言葉を話していたのは男性人間教師の池田先生だ。

 ドン、ドン、ドン。

「先生にゴリラは失礼だろ。ん? 誰だ? 音を鳴らしているのは? 静かにしろ!」

(……池田先生の隣でゴリラがドラミングをしている)

 ちなみにドラミングはゴリラの求愛行動だぞ♡

「先生。読者のみんなは女子の水着姿を望んでいるはずです。人型生物であればなんにでも欲情すると思ったら大間違いですよ!」

「ふー」

(ん? 誰か「ふー」って言ったか? 「ふー」って)

「誰だ? 今「ふー」って言ったやつ!」

(吉野やめておけ。人の好みだ。不躾にもほどがあるぞ)

「ふー」

(なんだゴリラの鼻息か)

「いいから授業始めるぞ」

「嫌だ。俺は女子の水着がみたいんだーーー」

 吉野がプールの側で欲望を叫ぶ。

「きも」

「きもすぎワロタ。アハハハハ」

「気持ち悪いよ。吉野くん」

 遠くまで飛んでボールを拾いにプールの側に来ていた、高橋さん、前野さん、佐藤さんに吉野の奇行が目撃された。

 その日、吉野の株が暴落したことは言うまでもない。

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