第2話
アイリンがサーナイト王子と出会ったのは……いや、王子の姿を見たのは十年ほど前の五歳の頃だった。
その当時、アイリンの両親は馬車による事故により帰らぬ人となってしまった。
『お父様? お母様?』
アイリンが何度声をかけても返ってくる言葉もなく、二人は眠っているかのように目を閉じている。
二人の亡骸が入った棺の前で泣いていた私の前に現れたのが国王陛下と陛下に付き添われてきたサーナイト王子だった。
『これはこれは陛下。わざわざお越し下さいまして』
陛下の対応をしていた祖父の姿は今でもよく覚えている。そして、ずっと泣いていたアイリンに優しく声をかけてくれたのもよく覚えている。
――こいつは何も言わなかったけどね!
でも、今となっては「五歳の子供があんな場所に突然連れてこられたら何も出来ないか」とは思う。
ただそうなると……。
――どうして連れ来たのかしら?
その疑問が過ぎったけれど、ふと「ある可能性」が浮かんだ。
――もしかして、国王陛下はサーナイト王子の婚約者候補を探していたのかも知れないわね。
当時のアイリンの家の階級は「公爵」だった。それを考えると、おかしな話ではない。
――でもまぁ、結局。公爵が亡くなってしまった事により、階級の見直しがされて兄は「伯爵」の階級を後日承る事になったんだけど。
あれは最初で最後の「顔合わせ」だったのかも知れない。
なぜなら、あの日は「とても大事な話があるの」とお母様に言われていた日だったから。
――しかも「ちゃんとおめかしするのよ」って言っていたし。
いつもであればそんな事を言わないお母様の言葉を不思議そうに思いつつ、屋敷のメイドたちに準備をしてもらい待っていたのだ。
――でも、そこから執事長のセバスが入って来て自体が一変したのよね。
そして今日までクラスで顔を見る事はあっても話す事がなかった相手となぜかこのタイミングでこうして対峙する事になったのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「今までの出会った事のある女性は大体顔を赤くしていたが、まさかここまで嫌そうな顔を向けられるとはな」
そう言いつつサーナイト王子は笑いを堪えている。
「すみませんね。元々こういう顔なんです」
正直、一国の王子に対しこんな口調はどうかとも思うけれど、彼だってアイリンを笑っているし「この学校では身分など関係なく接するように」という方針だ。
――別に問題ないわよね。
さすがに多少の気遣いは必要だとは思うけれど、これくらいは許して欲しい。
「ははは。悪い悪い」
「……」
そう言って笑っている内に涙が出たのか王子は目の端の涙を拭った。
「はぁ、久しぶりに笑った」
「そこまで笑われるとは思ってなかったけど」
「……悪かった。あまり深刻に捕らえないでくれ」
「……」
――そういうつもりで言ったワケじゃなかったんだけど。
ただアイリンとしては「意外だな」と思っただけだったのだけれど、王子はかなり深刻に受け取ったらしい。
「そういえば、いつもここで勉強しているの?」
「……まぁ。ここは……いつも静かだから」
アイリンがそう言うと、サーナイト王子は「なるほど」と興味深そうに言う。
「何か?」
そう尋ねると、王子は「いや」と言いつつアイリンに顔を近づける。
――ちっ、近い。
「毎日のこうした積み重ねが成績に繋がっているのだと感心しただけだよ。アイリン・シュベルさん」
サーナイト王子はニコッと笑顔でアイリンを見たのだった。
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