職業案内所所長 アイリン・シュベルの場合
第1話
昔……いや、この王国の魔法学園に通っていた学生時代。アイリンの周りの女子生徒たちはいつも色めき立っていた。
――まぁ、その理由は……。
この国の第二王子が同級生……どころかクラスメイトだった事が理由だろう。
――でも、私には関係ないし。
当時のアイリンは全然クラスメイトに王子がいようが公爵家の長男がいようが気にせず我が道を歩んでいた。
――まぁ、向こうも忘れているだろうし。
しかし、実はこの王子『サーナイト・シュタイン』とは小さい頃にちょっとだけ顔を合わせる機会があった。
ただ、何せ小さい頃の話だったため「どうせ王子も忘れているだろう」とアイリンは思ってその事を誰にも言わずに過ごしていた。
――とにかく目下の目標は「卒業する事」よね。
そうして「きゃー!」とか「殿下~!」とか言う周りの女生徒たちを尻目にひたむきに頑張っていた。
「なっ、なんで?」
でも、アイリンの気持ちとは裏腹に周りと比べて魔法の力が「ない」という事を……入学して三回目の試験の結果が出る頃には十分思い知らされた。
――あの時の絶望と言ったらなかったわね。
今でもそう思う。
「……」
正直な気持ちは「信じたくなかった」だ。でも、最初こそは「調子が悪かった」だの「勉強したところがちょうど出なかった」だの言い訳が出来た。
しかし、三回も同じような結果になればさすがに分かる。
ただ、幸いな事に筆記の試験は学年でいつもトップを取れていた。そこでアイリンは「コレを伸ばそう」と心に決めて頑張った。
――たとえ全体の成績に大きく結びつかなかったとしても……私には「筆記」しかない。
そんな事を思う様になった頃には授業で「魔法の大部分は元々生まれ持ったモノ」という事を知り、そして『努力』で補うには当方もない時間がかかる事を知った。
――だったら!
それを知ったアイリンはますます「筆記の勉強」に力を注ぐ様になった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そんなある日――。
「うーん」
――もう少し……。
いつもの様に放課後の図書室で勉強をしていたアイリンは、本を取ろうと必死に腕を伸ばしていた。
「……コレ?」
「!」
そんな時、横から男子生徒の腕がニョキッと伸び、アイリンが取ろうとしていた本をいともたやすく取り、アイリンに手渡した。
「あ、ありがとうございま――」
手渡された本にばかり目線がいってしまっていたせいでアイリンは本を受け取るまでその相手を見ていなかった。
――げっ!
だから、本から目線を外して相手を見た瞬間。アイリンはとんでもないしかめっ面をしていたに違いない。
なぜなら……。
「プッ、組み。とんでもないしかめっ面だね」
そうその表情を向けた張本人の『サーナイト・シュタイン』からその場でそう言われたからである。
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