第4話


「同級生……ですか」

「そ、しかも同じクラス」


 何気ない会話を続けるようにナインは言う。


「あの」


 しかし、それを聞かされている後輩としては「あまり聞いてはいけない話を聞いている気持ち」になる。


「ん?」

「いっ、いいんですか。こんな話を平民の……しかも、魔法が使えない私にして」


 そう言うと、ナインはまたもキョトンとする。それはまるで「魔法が使えない事と何か関係があるのか?」と言っているかの様だ。


「良いも悪いも何も、普通の話だけどな? フィリップだって王族とは言え普通に学校に通うし、当然同級生がいても何もおかしい話じゃないだろ? それに、実は結構有名な話だしな」

「え、そうなんですか?」


 後輩は「初耳」と言わんばかりの表情でナインに尋ねる。


「ああ。何でも俺たちの代は豊作の年だったらしいぞ? まぁ、自分たちには全然分かんないけどな」


 ナインはそう言って「ククク」と笑う。


「まぁ、君の言いたい事も分からない事はない。どうしても魔法が使えるヤツと魔法が使えないヤツじゃあ出来る事の差が出るのは仕方のない話だ」

「……」

「つっても、その魔法が使えるヤツにも優劣が存在してんだけどな」

「え」


 驚いた様に言うと、ナインは「当たり前だろ?」と言わんばかりの表情を見せる。


「もちろん、得意不得意も合わせてな。今は学園のクラス分けは本人の魔法の熟練度……言ってしまえばどれだけ魔法が扱えるかによってしているらしいけど、俺たちが学園に通っていた頃は得意魔法でクラス分けがされていた」

「それって……」

「ああ、君の察しの通り。授業の度に目に見えて他人と自分の実力の差を思い知らされていたってワケだ」

「……」


 そして、アイリン・シュベルは筆記に限って言えばクラス……いや、学園の中でもトップの成績を修めていた。


「ただ、実技が得意じゃなかったのか全体の成績はどうしてもそれが響いて中の中。どうにも当時の成績の付け方が『実技重視』だったのか、俺は筆記がからっきしだったけど全体の成績だけ見ればいつも上位にいた」

「アイリンさん、実はあまり実技が得意じゃなかったなんて……意外です」


 でも、思い返してみると……アイリンは『鑑定』の能力は使っても、それ以外の魔法を使っている姿を見た事がなかった。


「まぁ、それに異議を唱えたのがサーナイトだったけどな」

「え、サーナイトって」

「ん? 『サーナイト・シュタイン』だよ。この国の第二王子。まぁあいつは『筆記も実技も同じ比重にしないとおかしいだろ』ってな。あいつとしては筆記だけはいつもアイリンに負けていたから、全体の成績で勝っても意味がないと思っていたんだろうが」


「ナインさんは……殿下とは」

「ん? ああ、昔からの顔なじみ。クラスは違ったけどなんだかんだ仲良かったんだよな」


 ナインはその時の頃を思い出すように「クク」と笑う。多分、こういった飾らずに媚びないところが殿下も気に入ったのだろう。


「アイリンと出会ったのは学園の図書室だったらしいけどな。まぁ、アイリンの場合は能力に大部分の魔力を持って行かれちまっているのが原因だったみたいだけどな」

「え、そうだったんですか?」

「ああ。でも魔力を持って行かれちまっているのは仕方ない。だから残りをどうするのかって試行錯誤した結果。何とか卒業までこぎ着けたってワケだ」

「……知らなかったです」

「まぁ、アイリンはあまり昔話をする様なヤツじゃないからな。でも、そのおかげで今の俺がいるワケだ」


 そう言って笑うナインを見て、後輩は思わず「なんか……良いな。そういうの」と言いたくなった。

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