第3話
「まぁいいわ。今日来たのはその資格試験の申し込み……なのよね?」
「お? おお」
しかしナインはどことなく歯切れ悪く答える。
「……何? 他に用事でもあるの?」
そう尋ねると、ナインは「……いや、なんでもねぇ」と両手を振る。
「? 相変わらず変なヤツね」
――学生時代もたまにこんな時があったけど。
なんて思いつつアイリンはそんなナインに対し怪訝そうな表情を向けていた……のだけれど。
「……」
しかし、後輩だけはそんなアイリンたちのやり取りを見て何か言いたそうだ。
「どうかしたの?」
一応、後輩に尋ねたけれど……。
「……いえ、何でもありません」
そうとしか答えてくれなかった。
「? そう? まぁいいわ。じゃあ。手続きしてくれるかしら?」
「分かりました」
アイリンとナインにとっては「いつも通りのやり取り」のつもりだったけれど……。
「ん? アイリンはしないのか?」
「え」
ナインは何気ないつもりかも知れない。でも、それが「当たり前」になっていたアイリンたちにとっては珍しい指摘だった。
「あ、あー。実は私は別の仕事の溜まっていてね」
「ああ、なるほど。そっか、分かった」
しかし、アイリンが言いにくそうにそう言うと、ナインは何か納得した様に頷いてそれ以上は深く聞いてこなかった。
そして……。
「それでは手続きを致しますので、どうぞこちらへ」
「はーい」
ナインが来たのは受験情報が開示されてちょっとしか時間が経っていなかった事もあり、人はあまりいなかった。
――おおよそ「大体この時期」って予想して来たのでしょうね。
実はナインが破魔師の仕事を受けたついでにこの職場案内所に寄っている姿を何度か見た事がある。
そして「大体この時期」という目星をつけていたのだろう。
――という事は、随分前から考えていたって事になるのよね。
意外に現実を見ていた友人に少し驚きつつ、アイリンは後の事を後輩に任せて自分の仕事場へと向かった――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「――では、まずこちらの書類に必要事項の記載をお願いします」
「ほいほい」
「試験は今日から二週間後。資料には一応予定の終了時刻が書かれていますが、多少前後するモノと思っていて下さい。また、試験自体は丸一日かかるのでそのおつもりで」
「分かった。ちなみに試験は一次のみか? 二次とか三次は……」
「資料を見る限りなさそうですね。そもそも受験資格をお持ちの方が少ない様ですから」
そう言いつつ資料の『受験資格』を指す。
「……確かに」
ナインは自分でそう言って苦笑いを見せた。
なぜならその『受験資格』は「破魔師として十年以上のキャリアを持ち、なおかつ仕事を難易度Aランクの仕事を百以上こなした者」と書かれている。
「今のご時世でこれに該当する方はそういません」
「かもなぁ。ぶっちゃけ、今は高くてもBランクの仕事が月に五個あるかどうか。ましてやAランクなんて指名か張り出された瞬間に取り合いだろうな」
そう言ってナインは「ははは」と笑う。
「まぁ、俺が破魔師になったばかりの頃は色々と決まりもなくて無法地帯状態だった。それを考えると、今はちゃんと仕事の難易度に合った人を据えているよ」
「それはつまり……」
後輩はナインの言葉から「以前は実力がなくても報酬に目が眩んで高難易度の仕事に行って亡くなってしまった人が少なからずいた」と感じた。
「そもそも魔物の数も減っているしな。色々と整える良いチャンスだと思ったんだろ」
「? どなたがですか?」
そう尋ねると、ナインはキョトンとした顔になり……。
「そりゃあもちろん。この国の王子だろ」
「え、王太子殿下……ですか」
「おお。俺とアイリ、フィリップ……王子は魔法学園の卒業生だ。でも、そうじゃなかったらアイリに『その能力を俺の元で活かさないか』なんて話。持ちかけないと思うぜ」
「……」
何気なく話すナインに、後輩は驚きのあまり目を白黒とするしかなかった。
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