第2話
実は『破魔師』の資格はこの国だけでなく、隣国の『バージリアン王国』だけでなくさらに向こうの『シンシア』でも適用されるモノだ。
――だから……まぁ、その人気の度合いは年々高まっているのよね。
そして、その人気が高まっていくに従ってその難易度も年々上がっているらしい。
「それにしても……」
何か言いたそうな顔でナインはアイリンたちの様子を窺う。
「……何よ」
「いや、さっきアイリンと……君が話しているのを聞いてさ。そんなに嫌なのか? 受験希望者」
ナインにそう聞かれ、アイリンは思わず「はぁ」とため息を零す。
「なっ、なんだよ」
「別に取りたいって気持ちは良いのよ。ただ――」
「初めて利用されるという方がどうしても多くなってしまい……」
そこまで言うと、ナインは何かを察した様に「あー」と言って自分の頭をかく。
「なるほどね。それだけ初心者ばっかりになれば……」
「ええ。その初心者の人たちに説明をするのに人員を割かれて業務が滞るのなんのって」
――毎年この時期は出来る限り残業にならない様にする事だけ考えているのよね。
「でも、それだけ受験する人が多いって事ですよね?」
後輩の何気ない言葉に、ナインは「そうだなぁ」と答える。
「言ってしまえば『破魔師』の資格さえ取ってしまえば、この国で破魔師の仕事が出来なくても他の国からお声がかかる可能性もあるし、何かの理由で別の国に行っても職に困る事はねぇって話だ」
「しかも受験可能になる年は魔法学園に入学出来る最低限の年齢とされている十五歳からだから、言ってしまえば学園に通っている三年の内に合格する事も可能なのよね」
「なっ、なるほど」
「まぁでも、それだけチャンスがある上に重宝するって知られる様になるに連れて難易度ももの凄く上がったらしいけど」
アイリンがそう言うと、ナインは「そうなんだよなぁ」と笑いながら頬をかく。
「正直、今の試験の難易度を受けて合格出来るかって聞かれたら……微妙だな」
そして苦笑いを浮かべる。
「それで? あんたはなんで認定員の資格が欲しいのよ? 正直破魔師の資格があればそれでいいんじゃないの?」
――そもそも破魔師の仕事はここで案内してないんだけど。
そう、実は破魔師の仕事はこの職業案内所では紹介していない。破魔師にはキチンと『破魔師の仕事案内所』がある。
「いやな。この認定員の資格があればさらに仕事の幅が広がると思ってよ」
「ああ、あなたは人にモノを教えるの。上手かったわね」
そう言うとなぜか照れくさそうに顔を背けるナインに対し、アイリンは「いや、なんでそこで照れるのよ」と言いたい。
「まぁ、そういう事だ。あくまで認定員の資格は教える立場に立つための箔付けのつもりだ」
「ふーん」
要するにナインの最終的な目標は「破魔師の資格を取りたい人のために資格取得の方法を教えたい」という事なのだろう。
――色々とちゃんと考えた上で受験するのね。
アイリンは思わず感心してしまったけれど、思い返してみると……ナインはいつも軽い調子でいながらなんだかんだちゃんと考えて行動していた事を思い出した。
――そうじゃなかったら、今も破魔師としてやっていられないわよね。
実は『破魔師』は資格を持っているだけでなく、その人自身の価値も仕事に大きく影響するという話を聞いた事があった。
要するに「人気がある人」には指名でたくさんの仕事があるけれど、そうじゃない人は『破魔師の仕事案内所』で仕事を紹介してもらわないといけない。
――なかなか厳しい世界ね。
「?」
そう思いつつ私はナインの方を見たけれど、ナインはそんなアイリンの視線に「どうした?」と言わんばかりの表情で見つめ返した。
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