破魔師の資格持ち ナイン・レッドストーンの場合

第1話


 ここ、職業案内所では就職に役立つ資格や試験の案内もしている。その中で特に人気なのが……。


「今年も来たわね」

「……はい」


 アイリンと後輩はついさっき張り出されたばかりの『破魔師資格取得に関する案内』の紙を前にしていた。


「毎年この時期になると……増えるのよね。資格取得希望の人が」

「そう……ですね」


 この資格を取れば「破魔師」としての箔が付く。


「そもそも『破魔師』って……」

「ああ」


 後輩は去年ばかりこの職場に来たばかりだ。


 ――まぁ。去年は新人としててんてこ舞いだっただろうし、この疑問が出て来る辺りちょっと余裕が出て来たのかしらね。


 ちなみに『破魔師』というのは基本的に「魔物に関する仕事」全般の仕事を受ける。


「魔物に関するって……随分大雑把ですね」

「まぁ、本来は『魔物の討伐』が主な仕事だったんだけどね。今は悪い魔物があまり出ないから」


「なっ、なるほど」

「で、今のところ魔物討伐はもちろん。魔物の研究をしてどういった事が原因で魔物が生まれるのか……そういった仕事もあるから、今は『全般』って事になっているのよね」


 アイリンがそう言うと、後輩は納得した様に「なるほど」と頷く。


「それに『破魔師』は魔法学園に通っている学生でも取れる資格だからね。魔法が使える人はとりあえずでも取っておきたい資格の一つなのよ」

「とりあえず……ですか」


 後輩の言いたい事も分かる。


 ――仕事に直結するから「とりあえず」は……まぁあんまり良い気持ちはしないか。


 しかし、そういう考えの人がいるのも事実だ。


 ――それに……。


 後輩は魔法が使えない。


 ――まぁ、魔法が使える人の方が優遇されている……って思っている人がいるのも事実なのよね。


 コレはこの国の抱えている問題の一つだ。


「まぁ『一応』って言ってはいるけれど、難易度は高いのよね」

「そうなんですか?」


 後輩がそう尋ねたところで……。


「そうだなぁ。魔法学園一クラスの半分ってところか?」


 アイリンではなく……でも後輩でもない「男性」の声が聞こえ、アイリンは思わず「はぁ」とかなり深いため息をついた。


「何か様?」


 そう言うと、男性は「おっとこれは失礼」と言いつつその顔は笑っている。


 ――全く、相変わらずイラッとするわね。


 彼はアイリンの学生時代の同級生の『ナイン・レッドストーン』である。


「いやぁ、ちょうど破魔師の資格案内が張り出されたって聞いてよ」


 ナインの言葉を聞いてアイリンは「あら?」と不思議に思った。


「あなた、確か破魔師の資格。持っていたわよね?」


 そう言うと、彼は「あー」と言いつつ自分の頬をかく。


「俺は……あれだよ」

「あれ?」


 アイリンと後輩はナインが指さした紙に視線を向けると……そこには破魔師の資格試験の案内の横に『破魔師資格の認定員資格試験案内』と書かれた紙が貼られていた――。

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