第5話
「それで?」
「? 何が?」
「え、そのご令嬢だよ」
「ああ」
アイリンは「ある人物」とお茶をしていた。
――まぁ、不本意だけど。
しかし、この人物が「この国でその『鑑定』の能力を活かした仕事をしてみないか?」と提案してくれたおかげで今の私がいると言っても過言ではないので、こうしてたまに近況報告も兼ねてお茶を飲んでいる。
「まぁ、今のところは楽しくやっているみたいよ」
「そっか。それは良かった」
「……」
――全く、白々しい。
楽しそうに笑う「彼」をチラッと見ながらアイリンは心の中で思わず毒を吐く。
「何か言いたそうだね?」
「……いえ? 別に?」
「はは、そんな風には見えないけど。でもまぁ、アイリが何を言いたいのかは分かるよ。彼女が『エスクード』とまで言われるあの山を越えてこの国に来た方法だよね?」
――そういう言い方をするって事は……。
「はぁ、やっぱりあなたが一枚噛んでいたのね……」
苦々しくそう言うと、彼は「まぁね」と笑う。
「あの王太子とはあまり関わりはなかったけど、宰相の息子とあの公爵令嬢のお兄さんとは顔見知りでね。たまに連絡を取り合う事もあってね。でまぁ……」
そんな最中に「王太子が平民の女性に熱を上げている」といった趣旨の手紙が来たそうだ。
「それはもう『今すぐ婚約を破棄してその小娘と結婚する!』と言わんばかりの熱の上げようだって聞いてね。だからまぁ、一度様子を見に行ったんだけど……」
「ああ、それで」
――珍しく隣国の視察に付いて行ったのね。納得。
「結論から言うと。王太子殿下が……というより、あの国の魔法学校自体がおかしな事になっていた」
「……へぇ、媚薬でもばらまいたのかしら?」
「どうだろうね。何にしても、あの小娘に蹂躙されていた……って感じかな」
「で?」
「まぁ、時間もあまりなかったからね。彼女には申し訳なかったけど、最悪の事態に備えてこちらも準備をする事にしたよ」
その「準備」というのがこの国に来る手はずを整える……というモノだった。
「それで? 今『バージリアン王国』どうなっているの? 王太子殿下が結婚した……なんて話は聞かないし、それどころか婚約の話も聞いてないけど?」
そう、アレクサンドラさんが職業案内所に来たのはもう一ヶ月も前の話だ。それだけあれば「婚約」の話くらい出てもおかしくはない。
「ああ、王太子殿下はもう王太子じゃなくなったよ」
「え」
「さすがに国王も王妃もいないタイミング。しかも卒業パーティーで婚約破棄を一方的にして、その上イジメの証拠はでっち上げ。廃嫡程度で済んで逆に良かったと思うくらいだよ」
「そ、そうだったの」
そして彼曰く「婚約破棄の話自体大きいモノだったからね。混乱を避けるために今は伏せているみたい」との事だった。
「アレクサンドラさんのお兄さんはあの一件で妹を見捨てた公爵に隠居を言い渡して、今は自分が公爵になっているって、落ち着いたら様子を見に行きたいって」
「ああ、それで」
アイリンは思い出した様に頷く。
「え? 何なに?」
「いえ? 前にわざわざアレクサンドラさんが『感謝の手紙』をくれたのよ。そこに『たまに遊びに来てくれる隣国の青年がいる』って書いてあってね」
「え、それって……」
「まぁ、その青年と依頼人と一緒に庭の花を見ながらお茶をするのが最近の楽しみですって書いてあったから……それで良いんじゃないかしら?」
多分、その手紙に書いてあった「青年」とはお兄さんの事だろう。
「まぁ、そうだね。でも、それって絶対バレているよね」
「本人たちがそれで良いって思っているのならそれで良いのでしょう? あそこは田舎も田舎だからまさか隣国の公爵が来ているなんて夢にも思っていないだろうし」
アイリンがそう言うと、彼は「違いない!」と言って王族とは思えない程盛大に笑ったのだった――。
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