第4話
この国にも「貴族」という身分の人たちはいて、アイリンは「貴族」がどうにも苦手だった。
――だって……ねぇ。
アイリンの「友人」と呼べる人間は「貴族」ではあったものの、そこまで自分の身分を笠には着ていない。
――だから仲良く出来るのだけれど……。
それ以外の貴族はどうしても苦手だった。
――でも。
目の前にいる隣国で『元』貴族の女性は……とても可愛らしくて好きになれた。
――それだけに……。
彼女が「平民の人に手ひどいイジメをして婚約破棄をされた」という事が信じられなかった。
――でもまぁ。
それをアイリンがどうこう言う事は出来ない。
――そもそも隣国の事だし。その現場を直接見たわけでもないし。下手をすれば第三者ですらないただの隣国の職員だし。
「えー、では。気を取り直して……」
そこでアイリンは「あまり深く聞かないでおこう」と心に決めた。
「オリビアさん改めアレクサンドラさん」
「……はい」
「鑑定の結果。あなたの魔法はこちらの形式に則ると第一魔法は『地』になります」
「地……ですか」
「はい。簡単に言いますと『地面』に干渉する魔法が得意という事ですね」
そう説明すると、アレクサンドラさんは「なるほど」と頷く。
「それでは」
アイリンは説明を続けつつ一枚の書類をアレクサンドラさんの前に差し出した。
「?」
「アレクサンドラ様は『地』の魔法を得意とし、なおかつ趣味の欄にはお花の世話をするのも好きだと書かれておりますので」
「はっ、はい」
「それを踏まえまして……こちらに住み込みでお庭の整理をして欲しいというモノがあるのですが」
そう言うと、アレクサンドラさんは「それは……仕事ですか?」と言わんばかりの何とも言えない表情を見せる。
――まぁ、そう思うのも仕方ないかもね。
「庭の整備という程の専門的なモノではありませんが、こちらの方はなにぶんご高齢で身の回りのお世話は一緒にお願いしたいというご依頼です」
「依頼……ですか」
「ええ。でも、この仕事をして庭のお世話などを学ぶという意味では良い経験になるのではないかと。住み込みですし」
「住み込み……確かに」
今のアレクサンドラさんはとにかく住む場所とお金が必要なはずだ。
――アレクサンドラさんが今どこで生活をしているのかは知らないけれど。
いずれにしても一度でも「こういった仕事の経験がある」となれば次の仕事も見つけやすい。それを踏まえた上でアイリンは提案した。
「もちろん『住み込み』という事になりますので、一度ご依頼の方とお会いして話し合いをした上で決めて頂いた方が良いとは思いますが」
「……」
アイリンがそう言うと、アレクサンドラさんは途端に表情を曇らせた。
「……どうかされましたか?」
「いえ。あの、本当に私で大丈夫なのでしょうか?」
「――と言いますと?」
「知っているとは思いますが、私は……王太子から婚約破棄をされた身です。そんな私を雇ってくれるとは……」
――到底思えない……と、完全に自己肯定感がなくなっているわね。
事情がどうであれ、自分の言う通り「アレクサンドラさんは王太子から婚約破棄をされた」それは紛れもない事実だ。
――でも。
「この国でも以前のあなたと同じ『貴族』の中に入ればそういった好奇の目で見られていたかも知れませんね。しかし、今回私が紹介した仕事の依頼人はご高齢の女性でしかもここからかなり離れた田舎に住んでいます。少なくともここよりはそういった話は入ってこないかと」
ここは国の中でも都市部に入る。そのため、隣国の情報でもすぐに入ってきてしまう。
――それに比べると、田舎の方は「そんな事俺たちは知らねぇ」と言わんばかりにマイペースなのよね。
それを踏まえて考えると……色々と疲れ切ってしまっている今のアレクサンドラさんにこの仕事は合っている様に思えたのだ。
「それに、住み込みの希望以外に『楽しくお茶の出来る方』という希望も出されています。適任ではないかと」
そう言うと、アレクサンドラさんは……。
「あの」
「はい」
「一度、お会いして話を……したいです」
「分かりました。それでは仕事先の方に連絡してきますね」
アイリンがそう言って立ち上がると、アレクサンドラさんは「お願いします」とお辞儀をした。
「お任せ下さい」
――本当に、礼儀正しい人だなぁ。
そう思うと同時に「なんで婚約破棄されちゃったのだろう?」という不思議な気持ちになったモノの、あえてそれを口に出す事はない。
――だってなんだか面倒そうだし。
そして仕事先に連絡を取って会う日にちを決めたのだけど……まさか会ったその日の内に住み込みが決まるとは……思いもしなかった。
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