第2話
そして続きを読むと、何と王子が婚約破棄を宣言したのは卒業式後に行われたパーティーの中だと言う。
「たっ、確かバージリアン王国の王太子って今年王国の学校を卒業されたはずよね?」
「はい」
「卒業パーティーの時って」
つまり、みんな「卒業おめでとう!」とか楽しく笑っているタイミングという事になる。
「なんて迷惑な」
アイリンはとっくに学校を卒業している身だけれど、その時にそんな話をされたら思わず「こんなおめでたい席でそんな話をするな!」と言っていたかも知れない。
「でも、婚約破棄の理由って婚約者の令嬢が平民の生徒をイジメていたから……って事みたいですね」
「ふーん」
でも今大事なのは『婚約破棄の理由』ではなく「隣国の王太子が婚約破棄をした」という『事実』である。
「この記事を見た限り、婚約破棄をされた令嬢は身分剥奪の上に国外追放になったみたいね」
「……はい」
――正直。令嬢がどれだけその平民の子にイジメをしたのかは分からない、でも……。
身分剥奪の上に国外追放というのは……なかなかに厳しい措置だと思う。
――まぁ、第三者が詮索したところでどうしようもないけれど。
「あの」
「ん?」
「その、ここに書かれているご令嬢がこの国に来るという可能性は……」
「そう……ねぇ。ないとは……言い切れないけど」
「それはないんじゃない?」
アイリンが言い切る前に、一人の女性が声を上げた。
「そうね。ここに来るより『シンシア』の方に行くと思うわ」
そう言うと、みんな「確かに」と納得した様にうなずく。
なぜならここ『シュタイン王国』は地図で見て右側の端には大きく標高の高い山があり、反対側に海が広がっているからだ。
「あの山を乗り越えるくらいなら多少ぬかるんでいても『シンシア』の方に行くでしょ」
「確か『エスクード』でしたっけ。あの山の名前」
そう、その山はその標高の高さからこの国の人々からは「山」ではなく「盾」と呼ばれている。
「魔法動物の天馬を使えば越えるのは簡単でしょうけど」
――まぁ無理でしょうね。
何せ身分を剥奪された令嬢だ。公爵令嬢であれば簡単に天馬を用意できたかも知れないけれど、普通は貴族の伯爵家でも用意出来ないほどの稀少な存在なのだ。
「そう言えば騎士団の前衛部隊の訓練でも使われるそうよ」
「そうなの?」
なんて事を考えている内に女性たちは個々で話を始めた様だ。
――でもまぁ。
「私たちはいつも通り仕事をするまでね」
アイリンはそんな彼女たちの様子を見ながら小さく呟き「さて!」と元気よく立ち上がり食べ終わった食器を持って行った――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「さぁて、そんじゃ早速……」
そしてアイリンは中途半端に終わらせていた事務仕事を始めようとしたところで……。
「あ、アイリさん」
「ん? もしかして『鑑定』が必要な人?」
「はい。あの、こちらにお呼びしてもいいでしょうか?」
「ええ。呼んでちょうだい」
そうして案内されたのが「女性」という事は分かった。
――でも。
女性はフードを深く被っていて顔だけでなく髪の色もよく分からない。
――顔を見られたくない……という事かしら?
そう考えたところで思い浮かんだのは今朝の話に出て来た隣国の公爵令嬢だ。
――もっ、もしかして……いや、でも。
全くない話ではない。
「……」
――確か、その令嬢は髪の色が焦げ茶色だったのよね。
ただ実は「焦げ茶色の髪」はバージリアン王国では珍しい髪色らしい。しかし、その令嬢の髪の色は生まれ持ったモノでなく、自分の得意魔法を知るための授業で色が変わってしまったらしい。
そこで私はハッとして書類に目を通す。
「……」
――出身地は『バージリアン王国』と。
そしてアイリンはそのフードの女性を刺激しない様に「お名前は?」といつも以上に穏やかな声で尋ねた。
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