隣国の元公爵令嬢 アレクサンドラ・オースティンの場合

第1話


「おはよう」

「おはよう。今日の『新聞』ある?」


 この国には『新聞』と言うモノがあり、それは様々な情報が詳しく載っている。ちなみにそれは貴族のみに限らず平民にも配られるモノだ。


「あ、こっちにあるよ!」


 ――まぁ、こうして配れば嫌でも目を通してくれるだろうし。


 ただ、コレは「無料」ではなくお金がかかっているのだが、税金の中に含まれているため、言ってしまえば『新聞』をもらうのはこの国にいる人たちの「権利」とも言える。


「ねぇねぇ。今日は何が書いてあるの?」

「うーん、ちょっと待って」


 そして、ここに載っている「情報」は何もこの国だけではなく、周辺の国の情報も載っている。


 ――いや、ほとんどはこの国に関しての事だけどね。


 なんて思いつつアイリンは朝食の後のモーニングコーヒーを飲む。


「あー、今日は夕方から雨だって」


 ――みんな熱心ねぇ。


 ちなみにこの職業案内所にも毎日新聞が届き、毎日この様に誰かと一緒に見ながら色々と話に花を咲かせているのだけれど……。


「ふぅ」


 アイリンはあまり興味がない。


「……」


 この職業案内所は国が管轄しているという事もあり、寝泊まりが出来る寮だけでなく食事もキチンと三食出て来る。


「えー! 今日は外で食べて来ようと思っていたのに!」

「あんたは酒場で知り合った男と飲みたいだけでしょ!」

「そんな事ないもん!」

「全く、かわい子ぶってもあんたも酒の飲める年でしょうに」


 ――どこかで食べてくる場合は当日に言えば良いし、朝食の場合は前日に言えばちゃんと対応してくれるし……はぁ、ありがたい。


 給料から食事代などは差し引かれてしまうせいもあってか役所で働いている人たちと比べると少し少なく感じる事もあるけれど、それ以外は特に不満はない。


「あ、ねぇねぇ。コレ見て!」

「ん?」

「なになに?」


 すると、一人の女性がある記事を差し、ついさっきまで騒がしかった女性たちは何やら真剣な眼差しでその記事に目をやる。


「?」


 ――なんだろう? そんなに真剣に見る様な事ってあったかな?


 今の時期は職業案内所としては比較的落ち着いた時期に入っている上に、王国の記念日なども特にない。


 ――うーん。


 なんて事を考えていると……。


「アイリンさん」

「ん?」


 声をかけられて顔を向けると、そこにはついさっきまで新聞を読んでいた女性たちの姿。


「どっ、どうしたの?」

「コレ……」


 アイリンは「?」と女性からその記事を見ると――。


「……え」


 そこには「隣国の『バージリアン王国』の王太子が婚約者である公爵家の令嬢の婚約破棄を行った」という事が書かれていた。

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