第4話


 実はシェルの父親は『騎士団』の一般兵だったのだ。


「その、それで『騎士団』の魔法部隊は基本的に後方に控えて支援する事が多い。それに今は……」

「魔物の心配はありませんし、戦の心配もない……と。なるほど」


 ――でも自然災害とかが全くないというワケではないんだけど。


「なるほど。それに『騎士団』の中には貴族の方も多く。男性も多いでしょう。そうなれば『出会い』も多いかも知れませんね」

「……多分。父としてはそれが目当てかと」


 シェルはそう言いながら自分が苦笑いをしているのが分かった。


「ああ、なるほど」


 ――いるのよねぇ。そういう考えの人。


 そして話を聞いてみると、シェルの家は代々誰かしら『騎士団』に入っているらしい。


「でも、既に兄が入っているから……。無理に私が入る必要は」

「そうですねぇ」

「それに、私は……自分の力を将来に役立てたいと思って」

「自分の力……ですか」


 アイリンが小さく呟く様に言ってシェルをジッ……と見つめた。


 ――ああ、なるほどね。第一魔法があれで『能力持ち』か。


 そう思いつつ、アイリンは書類に目を通す素振りをする。


「……なるほど。あなたには『治癒』の能力があるのですね」

「!」


 あまり大きな声で言わなかったのはシェルに対する配慮だろう。それくらい『能力』を持ている人は珍しいのだ。


「え。でも、なんで……」


 その時のシェルは「驚き」よりも「困惑」という感情の方が強く、その場で固まった。


「だって『治癒』の能力は普通の『測定』じゃ……」

「ああ、お気になさらず。決して言いふらすなんてしませんので」

「え、あ。はっ、はい」


 シェルは困惑しつつ頷く。


 ――ふふ「それじゃない」って顔をしているわね。でも、ごめんなさいね。言えない事があるのはこっちもなのよ。


 なんて思っている事を悟られないようにアイリンはサラリと話を続ける。


「ですが、珍しいですね。第一魔法が『火』の方が『治癒』の能力をお持ちとは」

「それは……色んな方に言われました」


 そう、基本的に『治癒』の能力は珍しい上に持つとしてもそれは回復魔法が多いとされる『風』魔法の使い手だ。


 コレはあまり珍しい話ではない。


 この国の『魔法』は基本的に火、風、水、地に分かれており、例外として「その他」の五つに分類され、大体の人が一つか二つの魔法を使う事が出来る。


 ――でもまぁ、基本的に第一魔法が「その他」に分類される人はそれ一つだけらしいけど。


 ちなみにシェルの一番得意とする『火』の魔法が攻撃系の魔法がほとんどで回復魔法は存在せず、基本的に回復魔法は『風』に分類されていた。


「なるほど『火』の魔法の使い手で『治癒』の能力をお持ち……と」

「……はい。だからなおさら」

「ご家族の方は騎士団を押す……と。ですがあなたは魔法の研究をしたいワケですね?」


 アイリンの言葉にシェルは無言で頷く。


「はい。今『火』の魔法に回復系統のモノはありません。ですが風魔法ほどとは言わなくても他の魔法にはあります。だから……」

「それを見つけたい……と、なるほど」


 ――確かにそれが見つかれば世紀の大発見ね。それに……。


「あなたの『測定結果』を見れば……不可能な話ではないでしょうね。ただ問題は……ご家族ですか」

「……はい」


 無理を通そうと思えば出来るだろう。それくらいの実力がシェルにはある。しかし、その無理を通したが故に家族の関係がこじれてしまう可能性も十分考えられた。

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