第3話


 ――でも、そうよね。何か理由がないと、来ないわよね。


 なんて事を頭では考えつつ話を続ける。


「こちらには学園の成績までは書かれていません……が、基本的に魔法学園の卒業生と言うだけで王国中の魔法に関連した部門や仕事の推薦状や案内状が来ると聞きます」

「はい。ありがたい事にたくさんの推薦状を頂きました」


 実はシェルは学園の中でも上位の成績を収めていた。基本的に魔法学園の元に来る「案内状」は魔法学園に対してだ。

 そして「推薦状」は個人に対して届けられるモノ。つまりその数が多ければ多いほど「優秀」という一種のものさしになっていた。


「本当にありがたかったのですが、一番嬉しかったのは魔法研究所から推薦状が来た事です」

「魔法研究所……王国最大の研究所ですね」

「はい、私も喜びました。何せずっと目指していたので」


 しかし、そこでシェルは表情を曇らせた。


「でも、家族はどうしても私を『騎士団』の……魔法部隊に入らせたいらしく……」

「……なるほど。確かにあなたの測定結果を見た限り……そうですね。適性はありますね。それに第一魔法は『火』となってしますし」


 アイリンの手元にある「測定結果」にはシェルの得意魔法である『第一魔法』も書かれている。


「……」


 ――ん?


「ああ、ご心配なく。この紙には『第一魔法』だけしか書かれていません」


 シェルの視線に気がついたアイリンはニコリと穏やかな笑顔で答えた。


「え」

「あの『測定器』は魔法が使えるとまでは言えないモノの、少量でも魔法力があるかどうか調べるためのモノですので、そこまで詳しい結果は出ないんですよ」


 それを聞いたシェルは「なるほど」と納得した。


 なぜなら「あまりにも少量すぎて本人も気がついていないって事がある」という事を聞いた事があったからである。


 ただ『魔法』というのは意外に厄介で、まだまだ解明されていない事がたくさんあり、実は「年齢関係なく突然魔法が使える様になる」という事あるのだ。


「本人の知らない内に……という万が一に備えてこの国では就職をする際には『備考欄』に記載する様にしているんです。ですので、魔法に関係のない家業を継ぐなどでない限り『測定』は必須になっているおりまして」

「なるほど、そうなんですね」


 しかし実はこの国では幼少期に子供たちは全員『測定』をしなければならない。


 しそしてそこで「魔法の素質」を認められたり入学規定年齢以内に「魔法の素質」が認められたりすれば入学出来る様になっている。


「――話が逸れましたね。つまり、あなたは騎士団ではなく研究所に就職したいと思いこちらの方に来られた……と」

「はい」

「なるほど。ですがそういった話であれば学校側で対処して頂けるのでは?」

「それが……学校では家庭の事情には口出しはしないと」


 シェルがそう言うと、アイリンは「なるほど」と答えた。


 ――優秀な人材だからなのか、正直学園側としては「どっちでも就職してくれればいい」って事なのかしら?


「……」


 ――たまにあるのよね、こういう話。


 そう、実はこういった話はシェルだけに限ったモノではなく、親に反対されてどうしようもなく困った人々が訪れる事もあった。


「確かに『騎士団』は王国直轄で部隊ごとに多少の差はあるモノの高く安定した収入がありますからね。それに比べて研究所は高い方と低い方でかなりの差がある。それを考えれば……」


 やはり生きていく為には「安定した収入」というのは大事だ。そして、そういった側面から就職先に悩む人が多い事をアイリンは知っていた。


「あ、家族が『騎士団』に入らせようとしているのは収入ではないんです」


 しかし、アイリンの予想に反したシェルの言葉に、アイリンは思わず「は?」と言って固まってしまった。

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