第20話

久々に帰ってきた王都。2年ぶりとはいえ、前回はすぐに王都を出たので特に思う所もない。ごめんね、こんな感想で。


幌馬車は王城の入り口に直接乗り付けた。私は門番に止められるかとヒヤヒヤしていたけれど、御者席に座るオスカーさんを見た門番は敬礼をして通してくれた。顔パスなのね。


「ルイ殿下、お帰りなさい」


「今、戻った。父上と話がしたい」


「分かりました。用意が整い次第お知らせに上がります。ソフィ様はこちらのお部屋にどうぞ」


 出迎えてくれた従者はすぐに手配をしてくれている様子。私が通された部屋は何故かルイのお隣の部屋。従者が退室すると代わりに侍女達が部屋に入ってきてあれよあれよと私をお風呂へ入れて磨き上げる。


私の髪ももう魔法で染める必要は無いのよね。


魔法を解くとやはり黒髪、黒目。本当に私は王族なのかと複雑な思いが過ぎる。


髪を乾かすと侍女は髪を結い上げた。徹底的に磨き上げられた私にドレスが用意されていたわ。無理無理!と叫びながら着たドレスで瀕死になりながらルイと一緒に謁見の間に向かった。


 王子服を着たルイは黒髪の令嬢姿の私を見て「綺麗だ」と褒めてくれたわ。ルイも今まで見てきた中で1番凛々しくて素敵だわ。やっぱりルイは王子様なんだなって実感したわ。


色々な意味でドキドキしながらエスコートされて向かった謁見の間には陛下と宰相とオスカー様が居た。そして久々の令嬢となった私。


「陛下、只今武者修行の旅から戻りました。」


「ふむ。オスカーから報告は上がっておる。ご苦労だった。おかげで村々から魔物の脅威が減り喜ばれているそうだ。そしてソフィ、おかえり。君も治療師として各地を回ってくれた事を感謝する。


君の活躍はカシャ王国のローラン王に報告してある。一度、国に帰りローラン王に報告しておいた方が良い」


するとルイが一歩前に出て陛下に発言する。


「陛下、私はソフィと旅を共にしてきました。苦楽を共にする間にソフィを是が非でも我が妃として迎えたい、そう強く思うようになりました。父上、どうか許可を下さい」


「うむ。オスカーからの報告通りだな。2年前と変わっておらぬ。ソフィが良ければ許可しよう。ソフィはどうだ?」


「私は貴族としてのマナーも最低限しか分からず、親からも捨てられた身。このまま治療師として各国の村々を周ろうと考えておりました。ですが、ルイ殿下が私を必要として下さるのでしたら私はルイ殿下のお側に居たいと思います」


「そうか。では我が国はソフィとルイの婚約を認めよう。ローラン王にも連絡を入れるとする。だが、先にソフィは国へ帰りローラン王に面会だ。ローラン王は首を長くして待っておる。ローラン王が認めたらルイの20歳の誕生日パーティーで婚約発表を行うとする。良いな?」



私とルイは一礼し、謁見の間を出た。


「ソフィ、疲れただろう。中庭でお茶でもしよう」


ルイは私をそっとエスコートし、中庭へ向かおうとした矢先、後ろから声が聞こえた。


「ルイ様!お帰りになられたのですね。お待ちしておりました」


振り返ると1人の令嬢が足早に近づいてくる。


「あぁ。ブラウン侯爵令嬢か、久しぶりだね。どうしたんだい?」


ルイが和かに問いかける。


「私、婚約者のルイ様をずっと待っておりましたのよ!そちらの御令嬢はどなたなのかしら?」


ルイは和かな微笑みを崩していないが、明らかにイライラしている様子。私の腰に手を回し力が入っているもの。


「ブラウン侯爵令嬢、紹介が遅れたね。僕の婚約者のソフィだ。女神が舞い降りてきたようだろう?僕が探し求めていた人なんだ。邪魔しないでくれるかな」


「ルイ様。酷いですわ。私という婚約者が有りながら。不貞ですわ!!!ちょっと貴方!ルイ様から離れなさい!」


 ブラウン侯爵令嬢は私に掴みかかろうとして護衛に止められる。ルイは私を庇うようにブラウン侯爵令嬢の前に立つと、


「ブラウン侯爵令嬢、何を誤解しているのかな。僕は一度も婚約者を持った事は無いよ。君が思い込んでいるだけ。もし、僕の大切なソフィに何かしたら君、分かっているよね?さぁ、ここから出て行って」


ルイが指示をすると待機していた別の騎士が令嬢を連行していった。


「ソフィ、大丈夫?怖かったよね。俺がソフィを守るから」


「……ルイ。ありがとう」


ルイはエスコートして私を中庭まで連れて行ってくれた。

 


 中庭は剪定された庭園というより、妖精の森のような緑の中に花が咲いて一つの造形美がそこにあるような雰囲気を醸し出しており、私達はその中央部にあるテーブルでお茶を飲む事にした。


「ルイ、素敵。妖精が住んでいそうね」


「そうだろう?俺もこの庭は気に入っているんだ。ソフィ、明日から忙しいから覚悟しておいてね。それと、婚約式の前に一度カシャ王国へ行って婚約を認めてもらわないとね」


「カシャの陛下に会ったのは王宮のお茶会よ。遠くから見ただけの父に会うというのは複雑な気持ちね」


 私は治療師として働き出してから初めてゆっくりする時間が取れた気がする。



そうして婚約式の準備やルイの20歳の誕生日パーティーの準備が急ピッチで進められる中、カシャ王国へ向かう事になった。

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