第19話

 翌日は朝から3人でギルドへ立ち寄り、私はカード作成したわ。案外簡単に出来る物なのね。


 私はランクがFランクという最低ランクのようだ。ルイもオスカーもAランクだったわ。


初心者の私は高ランクに付いて行ってもいいのかと思ったのだけれど、治癒魔法が使える人は少ないため、治癒魔法師はどのランクの討伐に付いて行っても良いらしい。


但し、自己責任で付いて行く事。そして連れて行く他のメンバーはしっかり治癒魔法師を守る事が出来る前提らしい。


まぁ、そうよね。


 ルイ達の依頼のお手伝いをするため、村を出て東の森へ向かった。森に入るとすぐに小さな魔物達がいる気配がする。


久々にこの気配を感じる感じ!前世を思い出すわ。


いつもは馬車で安全な街道しか通っていなかったからすっかりこの感覚を忘れていたわ。


「ゾエ、着いたよ」


 そうして森の中を歩く事30分。


少し開けた場所はおばけ茸とイービルプラントの大繁殖地と化していた。ここまで繁殖していると高ランクの冒険者でないと討伐は難しいわよね。けれど、ここは簡単にルイの全力の火で焼くと森が消滅しちゃうわね。


「ルイ、昨日のウォーターウォールは出せるようになった?」


「小さな範囲しかまだ無理だが出来るとは思う」


まだすぐには使えないか。


「分かったわ。私が今回は繁殖している周りを囲うからルイは全力で焼いていってね」


「分かった」


 ウォーターウォールを作るのは簡単だけれど、ルイの全力の炎を受け止めるとなると魔力の消費が激しくなるのが予想される。あまり良い手ではないのよね。人に教えておいて今更だけどね!


……仕方がない。あまり見せたくは無いけれど、結界を使うわ。


 横にあった木の枝を魔法で切ると簡易の杖を作成する。杖は魔法を使うのに補助的な役割をしてくれる。本来ならもっと良い杖を使いたいのだけれど。


私は唱詠をしながら杖に魔力を通すと杖の先は光が輝き、足元から周囲の魔物を全て包み込む結界を作った。


「ルイ、出来たわ。炎の魔法を」


ルイは私の作った結界に戸惑っているようだったが、すぐに魔法を使い魔物達を焼き払った。


「流石ルイ。綺麗に焼けたわ」


焼け跡からは魔石がゴロゴロと落ちていた。私はホクホクしながら魔石を拾い集める。何十個あるのかしら。かなりの収入よ。


「ゾエ、あの結界は何だい?見た事が無かったが」


え?普通の結界では?


「?ルイは結界を見た事が無いの?」


「いや、王宮の魔法使いが使う結界は箱型だよ。魔法で箱を作り、そのまま箱を移動させて敵に被せたり、魔法陣を使い魔物を囲うんだ」


なにそれ?むしろそっちが気になるわ。私の魔法は時代遅れなのかも?


「そうなんだ。私は本の知識しか無いから足りない部分は自分の勝手なイメージで作ってるようなもんだし」


まぁ、形状に合わせて形を変えるより形を作って出す方がイメージはしやすいわね。時代と共に魔法も簡単になっていってるのかもしれないわね。


ルイは不満気だけれど納得はしてくれたみたい。


 私達は来た道を歩いて帰り、ギルドへ達成報告した。大量に採れた魔石はもちろん買い取って貰い、そのお金はきっちりと3等分にしてもらったわ。懐が暖かいわ!


そうして早くにお手伝いが終わったので私は一足先に馬車に帰る。


『ギルド依頼のお手伝いに行っています』と掲げていたけれど、馬車前で数人の怪我人が私の帰りを待ってくれていたらしい。もちろん待っていてくれたのだから追い返す事なく治療をしたわ。






 私達はそうやって村々を周り、数日間滞在しては治療とギルド依頼をこなしたり、たまに一緒に依頼の為のパーティーを組んで各地を回って気づけば2年の月日が流れていた。


「ルイ。もうすぐ20歳じゃないの?お城に帰らないといけないわよね」


「そういえばそうだな。ゾエも成人となるし、一緒に帰るか」


「何言ってるのよ。私は平民だからルイと住む世界が違うわ」


「何を言っているんだ?君は王族だろう?俺と結婚しても何ら問題ない。むしろ国中を君は治療師として回っているのだから国民という後ろ盾も出来て皆、大喜びさ」


ルイの発言に私は衝撃を受ける。


「ちょっと待って。今、なんて言ったの?私が、王族?」


「ああ。もしかして知らなかったのか?」


「ええ。私は伯爵家から商人へ売られたんだもの」


18年生きてきた中で1番の驚き。私は王女なの!?初めて知る事実に混乱を極める。


「俺も詳しくは分からない。オスカー、父上から聞いているか?」


オスカーは丁寧に教えてくれたわ。


「ええ。ソフィ様はローラン王とモレル公爵家の令嬢の間に産まれたお子様とお聞きしております。そして事情があって伯爵家の養女として育てられたと聞いております」


……なんて事。


 私は伯爵家の娘では無かった。あの時、鏡で見た髪の毛や目の色が黒なのも本当に王族だったからなのね。それでも信じられない気持ちで一杯だわ。


「ゾエ、詳しく知りたいだろう。王宮へ帰るぞ。っと、その前に。


俺はソフィを一目見た時からソフィを好きになった。生涯を共にしたい。どうか私と結婚して下さい」


まさかの突然のプロポーズ!?


更にパニック!


自身の衝撃的な事実にルイの衝撃発言。どうすれば良いのか全く分からないわ!!ちょっと、冷静にならなければ!!


私は大きく何度も深呼吸をして冷静さを取り戻すように努めるがちょっと無理そうだ。


2人にお願いして馬車ではなく宿を取り、1人で考える時間を貰う事にしたの。


 オスカーはルイに苦言を呈していたわ。出自を聞いて混乱している私に突然のプロポーズはないだろうと。


本当にそうだと思う。



 静かに誰とも会わない宿の部屋で真剣に考える。この2年でルイともかなり仲良くなったと思うわ。色んな話もしたし、ルイは沢山の魔物も狩ってかなり強くなった。逞しくて格好良いから令嬢達からモテそうよね。



 ルイは私を嫁にと言ってくれるけれど、私は貴族としての最低限の学もないわ。それは今後、ルイと一緒に居るという選択を選ぶと苦行しか目に見えない。


ルイと一緒に居ることを考えると、嬉しい気持ちや不安、まさか本当に?信じられない、という気持ちが混ざっている。



そうして考えた末にルイに伝えた。


「ルイ、私は我儘だわ。いつも遊びたいし、街へも出かけたい。旅をしたいわ。治療師も続けたい。そんな私でもいいの?」


「もちろんだ。ソフィ、一緒に帰ろう」


ルイは私の手を引き、馬車に乗せた。


オスカーは私達のやり取りを見て微笑みながら馬車を王都へ向けて走らせていた。

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