第18話
今日も人が沢山並んでいるわ。
「ここで治療してもらえるのか」
「ここにどうぞ。どうされましたか」
私はそう言って馬車前に用意した椅子を差し出すと、聞いてきた恰幅の良いおじさんはドスンと椅子に座る。
「左足が痛くてな」
「少し触れますよ」
膝に少し魔力を纏わせる。膝ではないわ。纏わせる箇所をずらしながら探ってゆく。大腿部の裏側の筋ね。そっと手を翳して治療していく。
「終わりましたよ。はい、1000ルーです」
「おお。治ってる。これでこの金額は安い。有難うな」
おじさんを治すと、次は親子連れ。2人とも青白い顔をしているわ。
「どうされましたか」
「ここ2、3日前から熱と咳が酷くて……」
「分かりました。診てみましょう」
まず女の子から。うーん。体の各処を見るけど、少しの炎症があるわ。本来、治療魔法は怪我を治すのであって病は対象外なのよね。
お母さんの方も診てみるとやはり同じね。2人に喉や心臓に向けて治療魔法を使う。
「これで少しは熱も下がっていると思うわ。ちょっと待ってね」
私は馬車から干してある薬草を粉にし、小瓶に詰める。
「これを薄くスプーン半分の量を食後に飲んで下さい。病は治った訳ではないので数日は安静にして下さいね。では2人で2000ルーです」
そうして私はいつものように治療をこなしていく。そろそろ人も途切れてきたし、店じまいね。私は片付けをしてから商店へ向かう。
まだ夕方前なのでお店もやっている。
「今日のご飯は何にしよう」
商店には王都とはまた違った野菜が売られている。私はそのお店で野菜を買ったり、パンを買った。久々にお魚が食べたいわ。次の街は南に下って海に出るのもいいわね。
今日、使用した分の小瓶を買うと荷物も手一杯だわ。こっそり風魔法で荷物を浮かせるかな。鼻歌交じりで馬車に帰ると汚れた服の2人が帰って来ていた。
2人の服も買っておけば良かったわ。清浄魔法で2人の汚れを落とす。
「ゾエ、お土産。オークキングの肉」
「ルイ。ありがとう。ルイは強いのね」
肉の半分は燻製肉にしようかな。半分は今日ステーキにしようかな。鍋に今日買った野菜を煮込み始める。いい香り。
シチューも美味しそうよね。あ、でもステーキにシチューって豪華すぎないかな。そんな事を考えていると、
「ゾエ。お願いがあるんだ」
「ルイ、どうしたの」
「ギルド依頼を受けたんだけど、明日治療師としてパーティーに入って欲しいんだ」
「別にいいけど私、ギルドカード持っていないわよ?」
「ありがとう。ギルドカードは明日、ギルドに行けば発行してもらえるから大丈夫だよ」
「受けた依頼は何の依頼なの?」
「おばけ茸なんだよね。どうやらイービルプラントと一緒に森で大繁殖したらしくて僕達だけだと心許ないんだよね」
おばけ茸は衝撃を与えると幻惑の粉を吐くきのこの一種。イービルプラントは毒を吐き、動けなくなった所を蔓を使って敵をパクリと食べちゃう植物魔物。どちらも移動する事は無いけど、物理攻撃は毒と幻惑が厄介なのよね。
「ルイは魔法を同時に使える?」
「同時には使った事は無い。使えるのか?」
私は鍋の火加減を見ながら地面に10センチ程の水の壁を出す。
「ルイ、こうやってウォーターウォールを出すの。カーブを描くように敵を囲って、ファイアボールで敵を焼いいけばいいわ。これなら被害は最小限に出来るわ」
指先から火の粒を水の壁に当てる。
「ゾエは器用だ。寝るまで練習してみるよ」
「ルイ、言っておくけど、こうやって小さな魔法で見せたけど、私にはそんなに大きく作り出す事は出来ないと思うの。私は攻撃魔法は得意では無いから。器用では有るけれどね。練習頑張ってね」
「凄いな。僕は出来ない事ばかりだ」
「そんな事は無いわ。私は学校に行かずにずっと魔法の本ばかり読んでいただけだもの。本の中の知識しか無いわ。(前世の知識もフル活用してるけどね。)」
野菜スープも煮込めたのでフライパンでステーキを焼いていく。美味しそう。上質な脂の香りがするわ。ルイとオスカーさんに分厚いお肉を渡す。もちろん私もお肉に齧り付く。
「美味しい。ところでルイ達はいつお城に戻るの?」
「まだ武者修行のむの字もしてないよ。ゾエはどうするの。このまま治療師を続けていくの?」
「私は続けていくわよ。帰る所もないし」
「ゾエ。それなら僕の所に来ない?」
「えー。それってどういう意味で?滞在するといいって事かな?」
「ゾエが僕のお嫁さんになるんだよ」
「王子妃なんて面倒だし嫌だわ。私は好きに生きて行きたいの」
「僕は臣下に降る予定だよ。僕の奥さんになれば領地でゆっくり過ごせるし、今のように治療師として周る事も出来るよ。良いと思うよ」
「考えておくわ」
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