第6話

 今日はキリの良い所で治療を終えて神父様に会いに行く。


「神父様、私、そろそろ次の街に行こうと思います。短い間でしたが有難うございました」


「もう、行ってしまうのか。気をつけて行くんだよ。また此処へ帰っておいで」


神父様にも挨拶をしたし、最後に食堂でご飯を食べて行こう。


「おばちゃん、今日のオススメはなぁに」


「今日は早いね。オススメはオーク焼きだよ」


「じゃあ、それを一つ」


オークって見た目は酷いのよね。ヨダレを垂らして本能のままに生きてる感じだし。でもお肉は絶品だわ。熱々に焼かれた肉を口一杯に詰め込んで甘い脂の余韻を楽しむ。


「おばちゃん、美味しかったよ。今から次の街に向かうんだ。また食べにくるからね」


「そうかい。行っちまうのかい。何だか寂しいね。気をつけてお行きよ」


食堂を出て、商店で食料を買い込み、馬を馬車に繋いで出発。神父様が教えてくれた次の街。この道を進んでいくと次は小さな村があるみたい。


今度はその村に滞在しようと考えながらまた道端の薬草を摘み取りつつ村へと向かう。


……のんびりでいいわ。性に合っているかも。


 最初は知識やお金の為に治療院を開いてゆくゆくは王宮魔法使いに!なんて考えていたけれど、治療師として生きていくのも良いかもしれないと思っている。





 丸1日程馬車で走った所で次の村に到着。ロッケの村。本当に小さな村だわ。30軒程度の集落という所かしら。


私は教会前に馬車を停めて挨拶しに行く。ここの教会の神父様は気のいいおじいちゃんという感じ。


「神父様、突然の訪問をお許し下さい。私、旅の治療師をしていて3日程この村に滞在したいと思っています」


「こんなに小さいのに治療師とは。ここは人も少ないからのぉ。まぁ、お金にはならんが、人脈を広げる練習として許可するよ。この村の中央の家に村長がいるから一声掛けるといい。馬車は教会横に停めなさい」


「有難う御座います。早速、村長さんにお話をしてきますね」


馬車を教会横に停めて村長さんの家へ向かう。


ートントンー


私は教えられた村長さんの家にノックして顔を出した。


「ごめんください。村長さんは居られますか」


「どうしたんだい。お嬢ちゃん。わしがこの村の村長だが」


「私、ゾエと言います。旅の治療師をしていてこの村に寄りました。3日間程、滞在しようと思っていて挨拶にきました」


「こんなに若いのに凄いねぇ。この村は平和だから今の所「村長!大変です。魔物が村に入りました。避難して下さい!!今、村人が退治しているのですが、倒せずに怪我人も出ています!!」」



そう声が聞こえたと同時に警告の鐘が村中に響き渡る。若い村人が慌てた様子で声を張り上げ、皆に避難するように呼びかけている。


「お嬢ちゃん。危ないから急いで避難だ。大丈夫、村はまた再建出来る」


村長さんは私が怯えないように優しくそう言った。私を連れて避難しようと家の扉を開けるとーー


 視界に飛び込んできたのはサイクロプスだった。身の丈3メートルは有ろうかと思われる一つ目の巨人である。


広場の端の方には倒れている人達が見える。早く倒さないと危ないわね。


「お嬢ちゃん、早く」


村長さんが私の手を引き、逃げようとする。


「村長さん。私は魔法が使えます。先に避難をして下さい」


そう言って私は村長さんと繋いでいた手を解き、村長さんを押して逃がすと、私は広場の中央にいるサイクロプスの前に立つ。



 少し長い唱詠を唱え、魔法陣を足元に浮き上がらせた後、サイクロプスの攻撃が当たらない程度に後ろに下がる。


サイクロプスはそのまま下がった私を追うように前へ進み陣を踏みこんだ。陣は光ると同時に足元から金属音を立ててサイクロプスの周りを囲む。


ガシャンと締める音がして、サイクロプスを囲う檻が完成した。


よし。久々だけれど上手くいったわ。


サイクロプスは檻から出ようと攻撃を行うがびくともしない。


今がチャンス。


私は再び唱詠を唱えた。【アイスアロー】無数の氷の矢が格子を抜けてサイクロプスに刺さっていく。サイクロプスは大声で唸りながら檻を力一杯叩く。【アイスランス】素早く次の魔法を唱詠。


氷の槍が目を一突きすると、サイクロプスは倒れて動かなくなった。


 私はサイクロプスが絶命した事を確認すると倒れている人達に駆け寄り、怪我の具合を確認していく。肋骨が折られて内臓が傷ついている人が多いわ。時間との勝負ね。


「誰か、怪我人を一箇所に集めて下さい!」

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