第5話
青空の下で行う治療院。本日は50人程治療を終えた所で終了となった。どうやら治療を行なっていたシスターが亡くなってからは治療する人がおらず、皆が困っていたみたい。
久々に街に来た治療師の私。治療して貰おうと殺到したらしい。起き掛けからの診療しっぱなしだったのでお腹と背中もくっ付きそうなほどの空腹だし、疲れも凄い。
疲れた身体で食堂に入り、カウンターに倒れ込むように座る。
「おばちゃん!今すぐ食べれる物下さい」
「ははっ。今すぐかい。今日のオススメのシチューはすぐ食べれるよ。パンとシチューでいいかい」
「それ下さい」
熱々のシチューにパン。魔鳥なのかしら。食べた事のないお肉。ほろっと溶ける芋はなんて美味しいのっ。
これぞ仕事終わりの至福の時間!
仕事終わりの一杯のエールといきたい所だけど、まだ16歳、我慢するわ。
「おばちゃん美味しいよ。嬉しい」
スプーン片手にパンを頬張る。
「おやおや。ゆっくりお食べ。お嬢ちゃんこの街に来た治療師なんだろ。こんなに若いのに頑張るね。親はどういうつもりなんだろうねぇ」
食堂のおばちゃんはとっても私を心配してくれている。とても有難い事よね。
「ごちそうさま。また来るね」
そう言ってお代を置いて食堂を出る。
そうだ。冒険者の店に行こう。幌馬車の中は男の生活に合わせた仕様だったから最低限の物しか無いのよね。
お金も入ったし、今は懐が暖かいわ。この世界には魔物を討伐する為のギルドがある。商業ギルドも存在する。
治療に関しては教会なのだが、ポーション等の物品は商業ギルドも絡んでいるので店を開きたい場合はどちらとも確認を取る方が賢明なのだ。
私は治療師なので教会のみの確認で大丈夫なはず。私の場合、教会から許可が降りずに職に困ることになったら冒険者ギルドに登録して冒険者になってお金を稼いでも良いかもしれない。
まぁ、治療する人は少ないので職が無くなる事は無いと思ってはいるんだけどね。
さて、冒険者の店に着いたわ。店内は様々な品物があるわね。ダンジョン用の装備もある。懐かしいわ。服は流行はあるのだろうけれど、装備はそこまで300年前とは変わらないのね。
私は目的の馬車でもゆっくり寝れるように私専用のロングクッションと毛布を買う。馬車にも、クタクタにへたったクッションはあるんだけど、男臭いし古いし最悪なのよね。
こればかりは買い替えが必要よ!結界杭も新たに買い足す。護身用の剣も忘れずに。
パン屋にも寄ってパンを数個買う。よし、これでいいわ。馬車に戻りクッションを敷いて寝る準備が出来た。
それではお休みなさい。
翌日も朝から人が並んでいたわ。朝食のパンを齧りながら治療を始める。この街ではまだ重症者がいないのは幸いな事だわ。
治療費も安いので気軽に来る人も多いかな。1日治療を続けて今日は60人位かしら。早目に店仕舞いして食堂へ向かう。
「おばちゃん。今日のオススメはなぁに?」
「今日はホーンのパリパリ焼きだよ」
「やった。オススメ一つ頂戴!」
おばちゃんは熱いから気を付けるんだよとホーンのパリパリ焼きを出してくれた。
モグモグと口一杯に頬張る。
「おばちゃん、パンも食べたい。それと持って帰って明日の朝食べるやつも欲しい!」
「あいよ」
食堂は夜から飲み屋に変わるらしく、街の男達が少しずつ入り始めている。私の隣には体の大きな男が座り、話しかけてきた。
「嬢ちゃん。子供はそろそろ帰る時間だ。ママが待ってるだろう。帰れ帰れ」
男は笑いながらビールを頼む。
「うん。ママは居ないけど、帰るね」
「何!?ママは居ないのか」
「うん。1人だよ」
中身は充分大人なのだけれど、ここは年齢に合わせる。
「あたしも気になってだんだよね。お嬢ちゃん親は何処なんだい?」
「おばちゃん。あたし、親は居ないよ。売られて捨てられたんだもの。売られて馬車で移動している途中に魔物に襲われて男達は皆逃げたの」
「なんてっ、なんて波瀾万丈なの。この若さでっ」
おばちゃんの目が真っ赤になっている。こんなに心配してくれる人がいるってくすぐったい。
「嬢ちゃん。気をつけるんだぞ。人攫いもいるからな」
「おじちゃん、気をつけるね、有難う。もう行くね」
食堂のおばちゃんからパンを受け取り、お金を払ったら馬車へと向かう。
こんな調子で朝から晩まで治療を続けて数日が過ぎた。お金も貯まったし、そろそろ次の街に行こうかな。
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