第2話

 カラカラとゆっくり進む馬車は1週間程度で国境に差し掛かった。国境には警備兵が居て質問を受けたけれど、身分証を提示して問題なく入国できた。さて、私はこれからどうしよう。


 この歳では王宮魔法使いは入れないだろうし、勉強も微妙だわ。きっと伯爵は売る事前提で家庭教師は付けて貰えなかったもの。王宮魔術師になるには過去の知識では頼りない。


そうね。前世の知識や経験を活かして旅の治療師という事にしよう。


幸い、私は攻撃魔法より防御魔法や治癒魔法がやや得意なの。



 前世でも今世でも変わらないのは、攻撃魔法のみ使える人が大多数を占めている。攻撃魔法を使う人は防御や治癒に関する魔法はほぼ使えないらしい。反対に数は少ないが防御魔法や治癒魔法を使う人は攻撃魔法が使えない。相反する物だと思っている人も多いと思うわ。


 私が前世で筆頭補佐まで上がって来れたのも、両方が使える超希少、レアな魔法使いだった面も強い。


魔力量は筆頭には全然及ばなかったが。


 


 私は街道をのんびりと進みながら街道脇に生えてる木を切り、板状に加工して名前を書き込む。


『ゾエの移動治療師』


 馬車の幌に取り付ければ完了。一応売られた身なので名前は変えておくかな。ゾエって何処にでもいる名前だし、安心して使えるわ。



次の街まで約3日。



 のんびり気楽な馬車の旅。ふと、前に止まっている貴族と思わしき馬車。極力、貴族とあまり関わりたくは無いな、と思いつつ幌馬車は慎重に進んでいく。



見ぬふりをして横を通り過ぎようとするが、そういう時に限って声が掛かる。


「すみません!止まって下さい!」


御者席から1人の男が大声で私を呼び止める。


「どうされましたか?」


私は馬車を停めて、私の元に歩いてきた男に微笑みながら聞いてみる。呼び止めると言う事はやはり何かあったのよね。


「実は、魔物に襲われてしまいまして、主人が魔法で撃退したのですが、毒を食らってしまって。毒消や治療をお願いしたい」


男は悲壮感が漂っている。重症なのか。


「毒ですね。診てみましょう」


 私は馬車を降りて患者第一号の様子を見ようと馬車の扉を開ける。そこには20代前半だろうか、男の人が馬車の壁にもたれ掛かるように座っていた。


結構ハンサムね。


いえいえ、見るのはそこじゃないわよね。


 患者は白い顔をして息が浅いわ。毒が相当回っているみたい。ぐったりして意識が辛うじてある様子。右前腕の傷から毒が回ったのね。


 私は傷口に手を翳し、毒の中和を図る。徐々に顔色を取り戻しているわ。流石私。毒の治療を終えると、今度は怪我の治療ね。


 患者をそっと座席に寝かせて身体全体を魔力で包み、怪我の箇所と具合を調べる。腕が一番酷いわね。後は数カ所の打身って所かしら。


そのまま治療の光へと切り替えて傷口を塞いでいく。よし、終わり。外で待機していた従者に声を掛ける。


「応急処置は終わったわ。毒と傷口の治療。全部で1万ルーよ。」


「ありがとうございました。」


 従者から1万ルーを受け取っていると、治療を終えたばかりの男の人が馬車から降りてきたわ。従者は心配して馬車内に戻るように言っている。男の顔色は悪く、安静が必要だと思う。


 彼は私に向かって話しかけようとしているが、呼び止められてもお抱えの治療師になれと言われても面倒だわ。


「街に着いたらしっかりとした医者に診てもらう事をお勧めするわ。失った血は治せないから当分安静よ。治療費も貰ったし。では、失礼。」


私は幌馬車に戻り、街へとまた進み始める。


 よし。患者第一号から1万ルーゲットよ。貴族からしたら1万ルーなんてその日のお菓子代位。


安い物よね。庶民になった私からしたら1週間分の食料費よ。大事、大事。


私は街に向かいながら途中で薬草を採って乾燥させていく。



3日後、昼過ぎにようやく街に到着よ。

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