第3話 兄ガブリエル

ーー俺の妹、ソフィ。


 俺の妹は物静かでいつも本を読んでいる印象だ。一部の貴族達からは病弱で邸から出れないと言われている。実際には母がソフィの事を恥ずかしい存在としてお茶会等の社交の場に一切出さなかっただけだが。


 伯爵家に生まれたのに魔法が一切使えない落ちこぼれ。ソフィは魔力の判定で魔力有りとなっていたのにも関わらず、どうやっても魔法は使えなかった。


 俺は別にソフィの事を馬鹿にしていた訳じゃ無いんだ。ただ関わりを持とうとしなかっただけで。

いつも母は恥ずかしい、伯爵家の恥晒しだと騒ぎ立てていただけだ。


 ソフィは自分が魔法を使えない事を悩み、必死になって勉強し魔法が使えるようにと頑張っていたのは知っている。大人顔負けの知識量だろう。


 彼女は家庭教師もおらず、学校に通ってもいない。ただ本を読んでいるだけ、にも関わらず、王宮の文官として十分な程の知識を持っていた。聡明な妹に俺は一目をおいてはいたんだ。


 けれど学院に通わせていない妹の将来はどうなるのだろう。婚約者もいない。何処かの後妻として嫁がせる予定なのか。何も語らない父の考えは分かるはずも無い。



 ある日、気づけばソフィは突然いなくなった。父に聞くと、父も知らない様子。慌てて邸中探し回り、使用人達に聞いて回った。


父の異常な程の狼狽えぶりに使用人達はポツポツと話をし始めた。どうやら父の居ない時に母がソフィを商人へ売り払ったらしい。


ふざけているのかと最初は思ったが、どうやら本当らしい。


伯爵家の令嬢を商人へ売り渡す?


あり得るのか?


どうして母はそんな事が出来るんだ!


 父に詰め寄ると、父は観念したのかソフィの出自を話始めた。どうやらソフィはさる公爵家の娘らしく、理由があり伯爵家の娘として育てる事になったのだとか。


けれどソフィは狙われる危険があるとして全ての情報は秘匿とされていて、父しか知らないらしい。


 母からすればソフィは何処ぞの馬の骨とも分からないような愛人の子だと思っていたようだ。魔法も使えない愛人の子。憎くて仕方が無かったのだろう。


 14歳から入学する貴族学院へも通わせ無かったのはそのせいだったのか。大切に扱うようにと再三父が言ったにも関わらず、母は父の隙をみて商人にソフィを売ったのだ。



 父は直様、売り渡した商人を呼び、ソフィを返すように話をした。けれど、商人達を乗せた馬車は隣国へ向かう途中、魔物が現れてソフィを置いて逃げたらしい。


……絶望的だ。


母は秘匿とされていたソフィの出自を父から聞き、顔の色を無くした。当たり前だ。



 ソフィが売られてから3日程してようやく伯爵家が事情を商人から聞いて全力でソフィの遺体を探して見るがやはり見当たらないのだ。

馬車が襲われたとされた場所に俺達は護衛と向かったのだが、ブラックドッグの死体は残っていたが、馬車はいなかった。


 誰かが馬車を見つけ、馬車ごと持ち去った可能性もある。周辺に偶に出没するという盗賊だろうか。だが盗賊がブラックドッグを倒せるとは思わないが一縷の望みを掛けるしか無い。


例えどんな形であろうとも生きていればそれで良い。


妹よ。無事でいておくれ。

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