第八夜 『プリペイド・カード』
〈テレカ〉がテレフォン・カードで、〈ハイカ〉はハイウェイ・カードの略称という。
このほかにも多くのプリペイド・カードが利用されており、小銭を持ち歩く面倒から解放されるとともに、プレミアムがついているときは割引になるというメリットがある。
カード発行者側のメリットには、先に金を受け取り実際に購買に使われるのは後という時間的ずれによる金利の利益と、カードが使われないままになってしまうという不使用利益が期待される。
エージェンシー化とともに、エイチ病院で実施された幾つかの大改革のなかに、ホスピタルカード〈ホスカ〉の導入がある。
〈ホスカ〉販売元である売店は〈ホスカ〉での買い物にキャッシュバックサービスを始めた。
これが大当たりで、お見舞いの花束に〈ホスカ〉を添えるのがトレンドになっている。
これに刺激された隣の食堂では、絨毯を敷き詰めた〈ホスカ〉専用レストランを作り、日替わり健康食メニューとドリンクサービスを始めた。
サービス部門で試行が順調に進んでいるのを受けて、いよいよ医事でも〈ホスカ〉を導入することになった。
最初は入院患者だけを対象にして、それぞれの病棟で〈ホスカ〉による入院費の支払いを受け付けた。
土日や休日の退院でも〈ホスカ〉で会計を済ますことができるため、昨年度は2000万円近かった未収金が今年度はゼロになりそうである。
さすがにキャッシュバックというわけにはいかないが、死亡退院の際には専用宅急便サービスが用意されており、これが予想以上に好評である。
外来でも本格的に利用するため、小型の自動支払機を医師の机の上に設置した。〈ホスカ〉を挿入してから診察を始め、検査や処置の項目を打ち込むと同時に会計が終了するため、患者さんは会計窓口で待たされることもなく帰宅できる。
なかには、診察時間に応じて支払機が表示する残高に気づき、「薬だけで…」と早々に帰る患者さんもいる。
今日も外来では〈ホスカ〉を抜きとる度に、緑色の自動支払機が「ピピッ!ピピッ!」とやかましい。
最近、門前薬局でも〈ホスカ〉での支払いを受け付けたが〈格安ホスカ〉の売買をしているという噂もでている。
さらには、使用済みの〈ホスカ〉を再生する闇ルートもあるらしく、額面1万円の〈ホスカ〉を支払機に挿入したら残額が100万円と表示された。
ついに、神聖な病院の中にまで魔の手が入り込んでいるのか……。
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