第六夜 『アウトソーシング』

 1997年12月3日に出された行政改革会議の最終報告によると、行政機能の減量(アウトソーシング)という見慣れない言葉が使われていた。


 還暦も間近のエイチ病院では、お役所体質の生活習慣病から脱却すべく、エージェンシー化の第一歩として減量を始めた。

 アウトソーシングのモデルケースとして、アアセイ省のプロジェクトに採用されたことも幸いであった。


 既に、リネンサプライと院内清掃業務は外部委託していたが、今回のプロジェクトでは可能な限り推進するのである。


 まず手始めに、病院内外から不評の電話交換業務を24時間テレフォンサービス会社へ委託した。

 これは職員が持っている院内PHSにワープさせるサービスであり、交換手は病院内にいないので文字どおりのアウトソーシングである。

 それが極上のチャーミングボイスのため、交換手から苦情も出た。

「当直の研修医が、何度も電話をかけてきて困るんです」


 さらにドラスティックな改革は、給食部門全体を外部委託したことである。

 担当した外食産業の〈クッテリア〉は、メニューの個別化を行い残飯量ゼロも達成した。

 また病院内に新設されたレストランも、カロリー計算されたヘルシーメニューが評判である。

 地上十階のレストランから眺める夕暮れの岩木山は素晴らしく、わざわざ食事のために病院を訪れるカップルも増えた。


 続いて医療事務と臨床検査が改革の対象となり、それぞれ代行サービス会社に業務委託された。

 業務量に応じて派遣する人員を増減するため、月末の請求事務も短時間で終了してしまう。

 しかも、審査官の査定ポイントをわきまえているため、先月は査定率ゼロを達成した。


 臨床検査代行サービス会社では、患者さんの採血から検査結果の整理まで行うフルサービス体制をとっている。

 さらに、病理解剖が必要な場合には24時間体制で解剖スタッフが派遣されるため、エイチ病院での剖検数は少しずつ増加してきた。



 ついに数日前の理事会で、病院長をアウトソーシングするという決定が出された。


 今夜も院長室では病院幹部が善後策を練っている。

 胸につけたバッジを磨きながら、事務部長が締めくくった。

「病院を辞められたあと、院長先生には我がデリバリー人材派遣会社の入社試験を受けていただくということで…」

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