第五夜 『全自動駐車管理システム』
エイチ病院の建物を見て、初度巡視にきた地方局の役人は「昔の療養所」と評した。
なるほど確かに、正門を入ると大きな松の木などが植えられたロータリーがあり、朝夕など患者さんの散歩姿も見られる。
これを半周して正面玄関に立つと、ロビーから延々と長い廊下が続き、その両側には低い建物が連なっている。
まさしく、懐かしの名画「愛染かつら」のワンシーンである。
全体構想もないまま増改築を続けた結果、駐車場として使えるスペースが少しずつ狭くなってしまった。
それに加えて車での来院者が増加したため、外来のある午前中は建物の周り全てが車で埋め尽くされてしまう。
正面玄関前まで駐車場になると、院内放送で移動のお願いをするが効果はない。
車の中までは院内放送が聞こえないので、空いたスペースには別の車が入り込むというイタチゴッコになる。
庶務課の窓から双眼鏡で駐車場を調査した結果、混雑の新たな原因が明らかになった。
近くにあるエイチ大学の学生が(大学構内の有料駐車場を敬遠して)エイチ病院の駐車場を利用しているのである。
その行動パターンを解析した結果、駐車場からまっすぐ正門を出る初心者グループと、一旦は玄関へ向かって受診する素振りを見せてから正門へ戻る常習者グループとに分かれた。
大学当局への申し入れにもかかわらず、若くて健康そうな患者さん(?)たちは減少しなかった。
エイチ病院では駐車場の混雑と不法駐車を解消するため、外部委託による全自動駐車場管理システムを導入した。
ノウハウを持つ業者に手抜かりはなく、連絡を受けた警察官が正門前の五叉路の交通整理に駆けつけてくれた。
おかげで5月1日のオープンも無事にすみホッとした頃、ルーレット族が現れてゲートが機能できなくなった。
それも妊婦健診のある毎週木曜日に限って、奥さんを送ってきたご主人がロータリーを回っているのである。
仕方がないので、無料駐車時間を「30分以内」から「3時間以内」へ延長した。
混乱を避けるため、外部委託業者はラジオのスポットニュースも利用した。
それをカーラジオで聞いてきたという小父さんが、処置室の看護婦さんを誉めていた。
「やっぱりネイチャンが一番だ。機械にチュウシャされるんだば、ゴメンだ!」
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