結婚

 同性愛者と言っていた美穂さんだが、男性を全く受け付けないわけではなく、誠司を受け入れてくれて、3人での生活が始まった。

 数か月後、美穂さんと誠司の間に新しい命が宿ったところで、けじめのために美穂さんと入籍することにした。


 入籍するにあたり美穂さんのご両親に結婚のあいさつに行ったところ、大歓迎で迎え入れてくれた。

「一人娘でわがままに育ててしまったので、ご迷惑をおかけするかもしれませんが、美穂をよろしくお願いします。」

 美穂のお父さんが泣きながら、誠司のグラスにビールを注いでくれた。


誠司の両親に挨拶に行った時も、愛実の時は大違いに歓迎してくれた。

「美穂さんみたいな人には、誠司は釣り合わないと思いますが、よろしくお願いします。」

 誠司の父親が上機嫌で酔っ払いながら、何回も同じことを言って、美穂さんを困らせていた。


 2人の両親の喜びように、偽装結婚であることを秘密にしておくことは心苦しかっが、バレずにいれば嘘も方便だ。

 今日両家の顔合わせが、市内の料亭で行われた。最初はぎこちなかったが、両家の父親とも釣りが趣味とわかると、すぐに意気投合して仲良くなり、一緒に釣りに行く約束までしていた。

 仲良くなればなるほど、偽装結婚であることに胸が痛むが、両家の仲が悪いよりはましだろう。そんなほっとした気持ちで、部屋に戻ってきた。

「愛実、ただいま。一人にしてごめんね。」

 誠司は愛実に抱きつきながらいった。

「誠司さん、愛実から離れて、次は私の番ね。愛実、お待たせ。」

 今度は美穂さんが愛実に抱きついていた。3人で暮らし始めてから、誠司と美穂さんどちらが愛実を愛しているかを競うように、愛実を取り合うようになった。


 誠司も両家顔合わせのために着ていたスーツから部屋着に着替えリビングに戻ると、愛実がコーヒーを淹れくれていた。一口飲んだところで、

「お待たせ。」

 美穂さんも自分の部屋にもどり部屋着としてきているゆったりとしたワンピースに着替えて戻ってきた。3人揃ったところで、誠司は大事な話があると切り出した。

「俺と美穂さんは、偽装とはいえ結婚して夫婦になっているけど、このままだと戸籍上愛実を守るものがないから、俺と養子縁組しないか?それでと家族になれるから、お互いに何かあった時に家族としていろいろできること増えるし、愛実の言っていた老後についても支えあう義務も生まれる。」

「美穂はそれでいいの?」

「もちろん、誠司さんとは話し合った結果よ。愛実と家族になれるなら、結婚でも養子でもかまわない。」

「誠司さん、美穂、ありがとう。」


 そのあと、誠司と美穂さんの婚姻届けと、愛実の養子縁組の届け出を同じ日付に行い、名実ともに3人は家族になった。

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