愛実の秘密
「美人は作れる。」
長野早紀が、愛実と知り合ってから知ったことである。連絡先を交換した後、愛実さんを買い物に誘ってみた。単純に愛実の着ていた服がきれいだったし、肌も色白で透明感がありきれいだったので、普段どんなところで服を買って、どんな化粧品使っているのか気になったので、買い物しながら教えてもらうつもりだった。
愛実がよく服を買うというお店に連れて行ってもらい一緒に服を見ているとき、
「早紀は、暖色系の方が似合うと思うから、この服着てみたら。」
愛実は、マスタードイエローのトップスを勧めてきた。普段、地味な茶系統しか着ない早紀には派手かなと思ったが、センスのいい愛実が勧めてくるならと試着してみた。
試着後、更衣室の鏡でみると思いのほか派手ではなく、むしろ似合っていると思った。服の明るい色で、くすでいた肌も明るくきれいに見える。
更衣室のカーテンを開けて、愛実にもみてもらい、似合ってると言われ自信がついた。
早速、翌日仕事に着ていくと、
「長野さん、黄色の服って珍しいね。」
「昨日買ったんですけど、変ですか?」
「変ではなくて、むしろ似合ってるけど、今までのイメージと違うから驚いた。」
突然のイメチェンで驚かれたものの、みんなからの評判もよく嬉しくなった。
ほかにも愛実のつかっている基礎化粧品に変えてから、メイクのりもよくなったし、肌も白くなってきたと思う。職場のみんなからも、最近きれいになったねと言われることもあった。
ある日コーヒーでも飲もうと、社内の自販機に行ったところ同期の男性社員がいて、
「長野さんも休憩?」
「書類作製してると眠くなってきたから、コーヒーでも飲もうかなと思って。」
「奢るよ、どれがいい?」
入社以来、上司から奢られることはあっても、同期から奢られることはなかった。
恋愛対象とまではいかなくとも、女性として見られて優しくされたことが、嬉しかった。
6月に入り、そろそろ夏物の服が欲しくなってきたので、買い物に一緒にきてくれるように今回も愛実にお願いしたみた。
すぐに快諾の返事が来て、今度の日曜に買い物に行くことになった。
待ち合わせ場所につくとすでに愛実は待っていた。トップスが濃いネイビー、タイトレーススカートが淡いネイビーの同色コーデがよく似合っており、知らなければ男性とは思わないだろう。
「今日も買い物についてきてもらって、ごめんね。」
「私もちょうど夏物見たかったから、ちょうどよかった。」
いつも誘ってばかりの早紀に配慮した心づかいがありがたい。
夏物のワンピースとサンダルを買ったところで、一休みしようとコーヒーショップに入った。
「今日もありがとう。自分だったら絶対に選ばない色や柄を、愛実が選んでくれるから新しい自分になれたみたい。愛実ってセンスがいいよね。」
「女の子になるために、色使いとか組み合わせとか勉強したからね。」
「仕草とかも私より女の子っぽいというか、上品だよね。」
「それも女の子になるために、テレビとか映画で女優さんの仕草を参考にして練習したからね。」
男性から女性になるためには、意外と大変なようだ。女性に生まれて、特に何も努力してこなかった自分を恥じた。
でも逆に、愛実も男からここまでなれたのだから、自分も努力すれば愛実みたいな美人になれるのかなとも思ってしまう。
買い物も何回か一緒に行って、親密になってきたし、幸い両隣のテーブルには誰もいない。早紀はいよいよあの話題に触れてみることにした。
「愛実、お兄ちゃんと夜はどうしてるの?」
「夜って、まあ普通の夫婦やカップルと同じだと思うよ。」
「男同士だから、『兜合わせ』とかするの?」
「しないけど、触りあったりはするかな。」
兜合わせという単語を知っているところをみると、ひょっとして、
「愛実、BLとか好き?」
「ひょっとして早紀も?」
それからBLの話題で盛り上がり、早紀はお気に入りのアイスの実さんのSNSを紹介したところで、
「それ、実は私です。」
「えっ、そうなの。」
「ひょっとして、『さきいか』さんって早紀の事?」
「うん。」
お互い、SNS上では何回もやり取りした仲であることが判明した、
「誠司さんには内緒ね。」
「私もお兄ちゃんには内緒ね。」
秘密を共有したことで、さらに仲良くなれそうだ。
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