告白

 香川愛実、本名香川孝弘は、物心ついたときから普通の男の子とは違うとは自分でも思っていた。テレビも男の子が好きそうな変身ヒーローよりも、女の子向けのアニメの方がすきだったり、ロボットや恐竜よりも着せ替え人形の方が好きだった。母や姉からも女の子みたいといわれた。

 小学生のころ、姉が着ていたかわいいワンピースを自分も着たいと母に言ったとき、母は悲しい顔をした。男の子と女の子で着るものが違うことが不満だったが、母を悲しむ姿を見たくはないので、それ以降母にスカートやワンピースを着たいとは言い出せなかった。この時から、はっきりと女の子に生まれたかったと思い始めてきた。


 中学になると男であることに違和感を覚えてきた。まわりの男子がどの女の子が好きって話で盛り上がっているが、自分は女の子に性的興味はもてず、女子の制服であるセーラー服を自分も着てみたいと思っていた。

 体育で着替える時も、周りの男子に裸を見られるのに抵抗がでてきて、体育がある日は、体操服をシャツの下に着て登校していた。自分の裸を見られるのには抵抗があったのに、となりで着替えている男子の裸には惹かれるものがあり、女子よりも男子の方が好きであることを自覚し始めた。


 ある日、性についての授業が保健体育であった。そこで初めて、心と体の性が一致しない性同一性障害という言葉を知った。

 まさに自分の事だと思い、母にそのことを告げるとその晩家族会議が行われた。父は渋い顔をしており、母は泣くばかりだったが、姉が賛成に回ってくれたことで、結果として孝弘が女の子になることを許してくれた。

 学校にスカート履いていくといじめの原因にもなるし、性適合手術ができるにしても18歳以上だから、それまではスカートは家だけにして、大学進学後に本格的に女性化については進めていこうということになった。


「妹ができてよかった。」

 姉がそういって、受け入れてくれたことが一番うれしかった。愛実という名前もその時に姉が決めて、家では愛実という名前の女の子で過ごすようになった。股を広げて座らないなど女の子としてのしぐさや立ち振る舞い方も注意されるようになったが、少しずつ女の子になっていくのが嬉しかった。


 大学進学後に性同一性障害の診断をうけた医師から手術についても勧められたが、薬学部に進学したこともあり勉強が忙しく、手術をすると留年せざるを得ないことになるため、ホルモン治療だけで受けることにした。

 ホルモン治療を始めたことで、胸のふくらみなど女性らしい体つきに少しずつなり、髭も薄くなってきた。ある程度それで満足したのと、手術に対する恐怖もあり結局手術をしないまま今に至っている。

 性適合手術を受けていないため戸籍は男のままだが、幸い職場は理解があり愛実の名前で働かせてもらえているので、普通に生活する分にはあまり意識せずに済んでいる。


 

 誠司は人には聞かれたくない話と愛実が言ったため、駐車場に止めてある車に戻り愛実の話を聞いた。

「そんなわけで、戸籍は男のままだし、体も男のまま。中途半端な状態でごめんなさい。最初に言えばよかったけど、一度普通の女性みたいに合コンに言ったり、デートしたりと恋愛してみたかったの。」

 誠司は、美人な愛実がいままで彼氏がいなかった理由を知った。

「長野さんと付き合えてよかったです。普通の女の子になれて、食事したり水族館いったりできて楽しかったです。」

「『楽しかったです。』って過去形?」

「男だから、結婚できないし、子供もできないですよ。付き合う意味がないでしょ。」


 考えるのが苦手な誠司であったが、人生で一番悩んだと思えるぐらい考えてみた。

愛実が男であるとして、

①戸籍が男なので、結婚できない

②子供ができない

③親や親戚の理解が得られないかもしれない

 3つのデメリットが思いついたが、結婚するからといって籍を入れる入れないにこだわりはないし、子供も絶対に欲しいわけではない。親や親戚についても、愛実との関係を理解してくれないような人とは絶縁しても構わない。

 結局愛実が男であっても、何の問題もないという結論に至り、

「付き合う意味あるよ。少なくとも愛実さんと一緒にいると、俺は幸せになれる。」

 誠司がそう答えると、愛実は泣きながら抱きついてきた。

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