出会い

 1年前、同僚の杉村と田中から誘われた合コンで愛実とは知り合った。医療機器メーカーの営業をしている誠司と、薬局で薬剤師として働いている愛実は、同じ医療関係ということで話が弾み、連絡先を交換することに成功した。

 同じ合コンに参加していた、他の女性2人よりも明らかにレベルの違う美人だった。上品なワンピースを着ていた愛実は、食事の仕草も上品だった。

 杉村と田中は最初から手の届かない存在とあきらめ、他の女性二人に狙いを定めていた中、誠司はこのチャンスを逃すとこんなにきれいな人と知り合える機会はないと、玉砕覚悟で話しかけ連絡先を聞き出すことに成功した。


 連絡先は交換したものの、実際二人きりで会ってもらえるか誠司は自信はなかった。ダメもとで食事に誘ってみたところ、あっさりと「楽しみにしています。」と返事が来た。

 そのことを一緒に合コンに行った杉村と田中に言うと、

「くそ~、高嶺の花とあきらめずにチャレンジすればよかった。」

 杉村からはすごく羨ましがられたが、

「俺たちの代わりに頑張れよ。デートで行くならこの店おすすめ。」

 田中からはデートに最適なお店ということで、高そうに見えて意外とリーズナブルなお店を紹介してもらった。


 その日は頑張って定時に仕事を終わらせようとしたが、こんな日に限って急ぎの見積もり依頼があった。

 どうせ値下げ要求があるはずだから、その時にキチンとした見積もりを作ればいいやと、大急ぎで適当な見積もりを作り会社を出たが、待ち合わせ場所についたときには、約束の時間よりも15分ほど遅れてしまった。

 先に待っていた愛実は黒のワンピースを着ており、それが愛実の長身で細身なスタイルをより強調しており、遅刻しているにもかかわらず思わず見とれてしまった。

「遅くなってごめん、待った?」

「うぅん、お仕事お疲れ様でした。仕事切り上げて大丈夫でした?」

 遅刻した誠司を責めるどころか、心配してくれている気遣いが嬉しく思った。


 田中から紹介してもらったお店はおしゃれな感じで、愛実と一緒に入るにはふさわしい感じだった。誠司がいつも利用している大手居酒屋チェーンにしなくてよかったと、田中に感謝した。

 間接照明の店内は落ち着いた雰囲気で料理も美味しく、愛実も満足してくれているようだ。


 楽しい時間もあっと言う間にすぎ、お会計となり金額を確認すると、いつもの居酒屋よりは高かったが、田中の言うとおりリーズナブルな金額だった。誠司は全部出すつもりだったが、

「また誘ってもらいたいから、半分出しますね。」

と、愛実も財布を鞄から取り出した。女性が割り勘でいいというとき、本当に次に期待する場合と借りを作りたくない時があるらしいが、この場合はどちらなんだろうと思った。

「俺の方がビール多くのんだから。」

 結局誠司の方が少し多めに出すことで、彼女も納得してくれた。


 その2週間後に再度食事に誘い、その場で3回目の水族館デートの約束も取り付けることに成功した。

 水族館デートでは勇気をだして、手をつないでみたが拒否されることなく、むしろ恋人つなぎまでしてくれた。

 なんでこんなにきれいな人が今まで彼氏もおらず、自分と付き合ってくれるのか不思議だったが、誠司はもとから深く考えるのが苦手なこともあり、考えるのをやめて今を楽しむことにした。


 誠司は4回目となる愛実とのデート食事を終え、夜景をみるために展望台のある公園に車を走らせながら、愛実との出会いから今までを思い出していた。

「長野さんって、運転上手ですね。」

「営業で毎日運転してるからね。もうすぐで着くからね。」

 数分後、展望台近くの駐車場に車をとめ、展望台まで一緒に歩くときに手をつないでみたが、今日も拒否られることはなくつないでもらえた。


「夜景、きれいですね。」

「ここ初めて?」

「初めてですよ。車持ってないし、乗せてくれる人もいなかったし。」

 愛実のその言葉に嘘はないみたいで、初めてみるきれいな夜景を楽しんでいる様子だった。

 誠司は展望台の柵に並んで立っている愛実の肩に、そっと腕を回してみた。これも拒否されることなく、むしろ愛実の頭を誠司の肩に乗せてきた。

 いい雰囲気と思った誠司は、思い切って唇を重ねるために愛実の体を引き寄せた。


「ごめんなさい。」

 愛実は突然、誠司から離れた。

「こちらこそ、ごめん。」

 4回目のデートでキスはまだ早かったか?そんな後悔をしている誠司に、

「違うの。長野さんの事好きだから、先に話しておきたいことがあるの。私、本名は孝弘なの。本当は、男なの。言い出せずにごめん。」

 愛実は今にも泣きだしそうな表情で言った。

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