異世界もののヒロインと言えば
<異世界もののヒロインと言えば奴隷>
という風潮が一時期あった。藍繪正真自身は聞きかじった程度にしか知らないが、それについても内心ではバカにしていたりもした。にも拘わらず、実際に『奴隷を買わないか?』と声を掛けられるとつい反応してしまった。実は興味はあったのだ。
『奴隷を買う』
行為そのものには。
『いったい、どんな気分がするもんなんだろう……?』
と。そんな好奇心に負けてのこのこと男の後について行ってしまい、路地を進んだ先にあった怪しげな小屋に入ってしまった。
「うお……っ?」
瞬間、藍繪正真は小さく声を上げる。薄暗いそこには、首輪と革のベルトで数珠つなぎにされた<少女>が何人も並んでいたのだ。
「今はメスしかいないんでもしお客さんがオスをご所望だったら申し訳ないですが、今いるのも決してハズレじゃありませんよ。躾は済んでますしね」
呆気にとられて少女達を見詰める<客>に、男は揉み手をせんばかりに媚びた話し方をしつつ勧めた。
「……」
そんな男の言葉も右から左で、藍繪正真は、自分に向かって深々と頭を下げた、十歳くらいから十二歳くらいと思しき少女達を呆然と見詰める。
アニメなどで見る<奴隷美少女>達の、本当ならば悲惨な境遇の筈にも拘らず後ろ暗さを感じさせない明るい様子と違って、今目の前にいる少女達は、明らかに媚びる為の笑顔を浮かべながらもそれはあまりに空虚でまるで人形のように嘘くさかった。
前の世界にいた時の藍繪正真は、自身の境遇を恨み、自分より幸せそうな人間ばかりの世界に打ちひしがれ、そして追い詰められていた。自分よりも不幸な人間はいると言われつつも実際にはそんな人間にはお目にかかったことがなかった。
ネットなどで晒しあげられる<悲惨な人間>を嘲笑いながらも、どこかで、
『俺も大して違わないじゃん……』
と虚しさも感じていた。
だが、今、彼の目の前にいるのは、
<不幸そうな人>
ではなく、
<本物の不幸>
そのものだった。
まだ母親に甘えていたいであろう年頃の少女が物扱いされ、首輪とベルトで繋がれ、見ず知らずの男に対して空虚な媚びた作り笑いを向けるのだ。ここに来るまでの間にもどれほどのことがあり、何をされて、そして買われた先でどのような扱いを受けるのだろうか……
それを想像した藍繪正真の背筋を、ギリギリとした痛みにも似た何かが奔り抜け、胃がギュウッと締め付けられる気がした。朝食べた物が逆流しそうになり、辛うじてそれを抑える。
「お客さん……?」
自分をここまで連れてきた男が訝しげに見るのを、彼は口を手で押さえつつ、
『構うな』
という意味で片方の手で制した。
と同時に、その少女達の中では最も背の高い、年齢が一番上そうな栗色の髪の少女を目で示して、
「こいつはいくらだ……?」
絞り出すように言ったのだった。
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