流れに任せて

 藍繪らんかい正真しょうまがその少女を選んだのは、そこにいた中で一番大きかったからにすぎない。

 そしてなぜ一番大きなのを選んだかと言えば、

『ロリコンだとか思われるのもウザいしな……』

 というだけの理由だった。

 実に小さな見栄である。人間を無差別に殺しまくり社会に復讐しようとしていた割にはそんなことに拘るのだから、本当に無様と言えるだろう。

 それでも。奴隷商人と思しき男には、藍繪正真の見栄など何の関係もなく、

「銀貨十五枚でいかがでしょう?」

 そう持ち掛けられた。もっとも、その男は明らかに使いっパシリの下っ端という風情ではあったもののそこまで頭が回らない藍繪正真は素直に銀貨十五枚を払って少女を受け取った。

 こうして初めての奴隷購入は、実に呆気なく終わった。

 普通ならここで値切りが行われるので奴隷商人(の使いっパシリ)もふっかけていたのだが(相場としてはせいぜい銀貨七枚)言い値通りに支払われたことで、

『ちっ…! これならもっとふっかけてやりゃよかった』

 などと内心では思いつつ、

「毎度あり~」

 と、愛想笑いで藍繪正真と少女を見送った。

 が、当の彼自身はと言えば、

『つい買っちまったけど、どうすんだこれ……?』

 と焦っている状態ではあったが。

 そもそも行く当てもなければ今夜の宿の当てもない。右も左も分からない異世界で流れに任せて奴隷まで買って、呆然とするしかできないでいたのだ。

 なお、奴隷の値段というのは、前の世界でもかつては概ね庶民の年収前後が相場という時期が多かった(もちろんそうでない場合も少なくない)のだが、こちらでも<まっとうな奴隷商人>から買えば実はそれくらいする。

 しかしさっきのは完全に<闇商売>としてのそれであり、売られていたのも、

『奴隷が生んだ子をこっそりと横流し』

 したり、

『親を亡くして施設に預けられた子を職員が横流し』

 したりしたという、この世界でも違法な手段で手に入れられたそれだったので、表で流通させられず、ゆえに格安だったということだ。

 前の世界でも、偽ブランド品が本物の十分の一以下の値段で売られていたりするだろう? それに近い感覚だと思われる。

 加えてさっき売られていたのは、違法な中でもさらに<訳あり品>であった。事実、藍繪正真が買った少女も、脚を引きずるようにして歩いている。一緒に売られていた少女達も、足が不自由だったり体に目立つ痣があったり指が何本か欠けていたりだった。その所為で高く売れないため、パシリに任せていたというのもあったのだ。

「お前、名前とかあるのか?」

 脚を引きずりながら自分についてくる少女に、彼は尋ねた。

「…トレア…です……」

 少女はなんとか笑顔を作りながら自分の名を告げた。もっとも、それが親からもらった本当の名である保証もないが。


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