人間のふりをしている貧相な野生動物
などということがあったとはつゆ知らず、取り敢えず新しい剣を手に入れ、おまけとしてもらったベルト(これも安物ではあるが)を使って腰に下げ、
「……」
やや紅潮した顔をして何となくいい気分になっていた。
さらには、武器屋の近くの服屋で、これまた一見して<世間知らず>と見抜かれ、銀貨一枚とぼったくり価格をつけられた(実際には銅貨十枚程度)の服を買って着替え、これでようやく、
<センス劣悪なイモ男>
程度にまではランクアップしたと言えなくもない状態にはなった。それまでははっきり言って、
<人間のふりをしている貧相な野生動物>
状態だったとさえ言えたがゆえに。前の世界では他者の容姿を揶揄することは好ましい行いではないという認識も生じつつも実際にはまだまだ容姿で他者の価値を図る風潮は根強かったが、こちらの世界はさらにそれが顕著だった。
ゆえに、多少はマシになった程度では、やはりまだまだ見ず知らずの通りすがりの女性に振り向いてもらえるような存在ではない。
『なにこの気持ち悪い男』
的な意味で二度見されることはあるとしてもだ。
となれば、こんな<超絶ダサ男>に普通の女性が言い寄るわけもない。運が良くて、身ぐるみはがそうとする商売女くらいだろうか。取り敢えず小銭くらいは持っていそうにも見える程度にはなっていたのだから、そういうものを狙ってくる輩はいる。そういう意味でも手ぐすね引いて待ち受けているのは無数にいるだろう。
このように、『知らない』というのは、自らを守ることすらおぼつかないというものでもある。他者にいいようにカモられないようにするためには、その世の中というものを知らなければならない。
藍繪正真も、所持金が尽きるまでに気付ければいいのだろうが。
でなければ、この世界で人間を殺しまくる前に自分が食い物にされて何もかも失ってゴミのように打ち捨てられるだけだろうと思われる。
と、その時、
「お兄さんお兄さん…!」
平静を装っていても隠し切れない浮かれた様子になっていた藍繪正真にまた声を掛けてきた者がいた。
どことなく繁華街のキャッチのような印象のある若い男だった。
『…怪しい……』
これにはさすがに警戒心を抱いた藍繪正真ではあったものの、若い男は馴れ馴れしく近付いてきて顔を寄せ、
「良い奴隷があるんだけど買わないかい?」
と持ち掛けてきた。するとこれに対して藍繪正真は、
『奴隷……?』
思わず興味を抱いたかのような表情をしてしまったのだった。
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